愛鳥家ハチ

グレイテスト・ショーマンの愛鳥家ハチのネタバレレビュー・内容・結末

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

19世紀に活躍した実在の興行師P・T・バーナムを主人公に据えたミュージカル映画。今回は、『"音"で楽しむ!新宿ピカデリー映画祭ーライブ音響上映ー』にて鑑賞。"ライブ音響上映"とは、「映画館にライブ・コンサート向けの大規模かつ高品質な音響機材をセッティングし、映画の“音”の臨場感を、大迫力&ライブ感覚で楽しむ上映スタイル」とのこと(※)。確かにスクリーン付近の左右と中央に存在感のあるスピーカーが増設されており、ロックバンドのライブさながらの大音量と身体に響く重低音を堪能することができました。看板に偽りなしの爆音ショーは、ミュージカル映画である本作と相性抜群といえます。

ーーやや引っかかる構成
本作の上演時間は比較的短めで、間延びなくストーリーが進む点はとてもよかったです。もっとも、手放しのハッピーエンドではないところが奥深いと思いました。結局義父とのわだかまりは解消されないままですし、火を放った者は逮捕されたものの、粗野で危険な差別主義者たちの動向は不明なまま。オペラ歌手ジェニー・リンドのその後も謎のままです。心に引っかかりを持たせたまま、スッキリと終わらせてはくれません。

ーーバーナムの功罪?
また、バーナムの人物描写についても悩ましい部分があります。これは、価値観が進歩した現代で19世紀のサーカスの物語を描くことの困難さはどれ程のものかという問題と無関係ではありません。確かにバーナムは当時"部屋から出るな"と言われていた人々に活躍の場を提供したという功績はあるものの、他方、お金になるからと個性豊かな面々を集めてショーに仕立てること自体の倫理的な問題も指摘し得ると思います。彼ら彼女らが求めているのはスポットライトではなく、普通の視線、すなわち当たり前にそこにいてよいという温かな視線です。現代的なダイバーシティ&インクルージョンの考え方を19世紀設定の作品に投影することは困難ではあるものの、個性をビジネスに利用することに全く悪気がなかったという描き方にはどうしても違和感を感じざるを得ません。
 サーカスが"本物"ではないと言い切ってしまうことや、更には演者の皆さんをパーティー会場から締め出すシーンもなかなかキツいものがありました。加えて、「展示物は生きていた方がいい!」という趣旨の娘さんの発言も、無垢さから来る残酷さが表れており若干神妙な心持ちになってしまいました。

ーー喉越しと後味
終盤では、悪意なく他者を利用してきたことに対してバーナムはしっぺ返しを受け、遂に家族愛、仲間愛を再認識するに至りますので、ストーリー上の救いがあった点は鑑賞後感の向上に寄与してくれています。ラストの「もっとも崇高な芸術は、人を幸せにすることだ」という本人の言葉の引用は、これまでのいくつかの描写に対する最大限のエクスキューズであるように感じられました。全体的にテンポよく進み喉越しは良いけれど、後味がすこし気になる仕上がりといえましょうか。

ーーミュージカル映画の真骨頂
観客にツッコミを入れる隙を与えないテンポの良さとショーの迫力はそれだけで作品を成立させてしまうパワーがあります。作品を通して歌唱力と演出力に圧倒されました。とりわけ全く同じリズム、フレーズを繰り返して高揚感を高めていく手法は効果的で、"Never Enough"の迫力と臨場感は螺旋階段を登るようにじわじわと感動をかき立ててくれました。まさしくミュージカル映画の真骨頂だと思います。

※ https://www.smt-cinema.com/campaign/liveonkyo_shinjuku_202312
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