愛鳥家ハチ

晩春の愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.2
神保町シアターの特別企画「生誕120年・没後60年記念 フィルムでよみがえる――白と黒の小津安二郎」にて鑑賞。あらすじは以下の抜粋のとおり。

「結婚をめぐる父娘の微妙な関係を描き、戦後の小津映画を確立した名作。原の初の小津作品で、本作と同じ役名で出演した『麥秋』『東京物語』と共に"紀子三部作"と称される。」(※1)

ーーキャスト
父役の笠智衆は抑揚を抑えて平板な演技に徹することで、かえってわずかな表情の変化が心の機微を際立たせてくれていました。ライティングの妙と申しますか、顔にかかる影もまた父の心を映していたと思います。
 娘役の原節子は、底抜けの明るさが美しく、ムッとした表情には迫力がありました。小鳥が怒っていても可愛らしいものですが、この方の場合は御顔にパワーがあるだけにドキリとさせられてしまいます。
 娘の友人役の月丘夢路もまたスクリーンに映える御顔でした。あけすけな物言いが奥ゆかしい原節子との対比を明確にしてくれています。時折挟まれる女子トークを見ていると心が弾んでくるのはなぜなのでしょうか。
 父の妹役の杉村春子はお茶目でありながらもチャキチャキで、古き良きお節介な親類といった立ち居振る舞いが印象的でした。本作では兄妹を演じた笠智衆と杉村春子ですが、実年齢の歳の差は2歳(?)とのこと。この二人が『東京物語』では親子の役を演ずるのですから面白いものです。

ーー復興と親子愛
1949年に作られた作品ながらも、四角く切り取られた世界からは、尾を引く第二次世界大戦の影を感じることはありませんでした。例えば京都は空襲の被害が他の大都市圏と比較して少なかったと言われていますが、そのような戦争の爪痕が見えづらい京都を登場させたことも無関係ではないと考えます。
 古都・京都、そして観世流の能や茶道の点茶をフィーチャーすることは伝統文化への敬意の表れに他ならず、それは小津監督の戦後日本の復興への願いに繋がるのだと読み解きました。連綿と続く日本文化への敬意は、伝統こそが復興の土台になるという想いの発露だったのではないかと夢想します。国家主義的な復興への意志ではなく、市井の人々の人間性の発露による復興、本作においては、それは親想う心と親心によって表現されています。
 本作は、古来より連なる親子愛とペーソス(哀愁)を主軸として、じわじわと感動のボルテージをあげてくれる作品であり、時代を超えた親子愛に心が解きほぐされる思いがいたしました。春の陽光のような温かさと、宵闇の哀しさが相半ばする名作かと思います。

※1 https://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/ozu4_list.html#movie01
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