ハル

PERFECT DAYSのハルのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
木が風に揺れる時に見える光と影のゆらぎを、日本では木漏れ日と呼んでいる。掃除人の平山は、木漏れ日の写真を飽かずに撮り続ける。あたかも、同じように見える風景の中から、二度と訪れることのない瞬間を、切り取ろうとするかのように。

平山の日常も同じだ。堆く積まれる本や往年の音楽に囲まれながら、代わり映えのない毎日を送り続けている。しかし、平山自身がいみじくも言ったように、変わらないものなどないのだ。影と影が重なった時に影の色が濃くなるように、一見同じように見える毎日の中にも、二度と訪れることのない美しい瞬間がある。

この映画は、一見すると、起承転結のない作品のように見えるけれども、同じことの繰り返しの中から「瞬間」を切り取る人間を、きちんと描いていると思う。そして、それをやっている平山自身は幸福なのだ。あんなにも幸福を噛み締めた表情をする人間を、わたしは見たことがない。役所広司は素晴らしい表現者だと思った。
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