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クライ・マッチョのハルのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
3.8
「クライ・マッチョ」のある場面を観て、30年前の傑作、「許されざる者」を思い出した。

「許されざる者」でクリント・イーストウッドが試みたのは、西部劇の解体であった。西部劇にはカッコいいガンマンが登場して悪人を華麗に倒していくけれど、実際はそんなにかっこいいものじゃない。カッコ悪くて情けないのだ、と。要は、西部劇の解体を通じて、その根底に流れるマッチョイズムとしての男らしさまでも否定したわけだった。

いささか前置きが長くなったが、最新作「クライ・マッチョ」は、まさに、このマッチョイズムとしての男らしさを否定する作品だったのである。


舞台は1979年。引退した元ロデオボーイはかつての雇い主から13歳になる息子を連れ戻してほしいと頼まれる。向かった先はメキシコ。少年は、母親の庇護のもと、荒んだ生活を送っている。彼が憧れているのは、闘鶏の雄々しさに象徴されるような、マッチョイズムとしての男らしさである。老ロデオボーイは、過去の苦い経験から、そんなものが幻想でしかないことを知っていて、人生の先輩よろしく、少年を優しく説き伏せる。

「誰もが強く見せたがるが、本当はカッコ悪くて弱いんだよ」

私が「許されざる者」を思い出したのはまさにこの台詞を聞いたからだった。この言葉にあるとおり、本当に強くて優しい者は自分が弱いことも知っていて、潔く認めることができるのだ。そして、その精神性にこそ本当の男らしさが潜んでいることを、イーストウッドは教えてくれたのだった。


「許されざる者」が公開されてから30年経つが、イーストウッドの描くテーマは基本的に変わっていない。人間を、そして、現実をありのままに描く彼の作家性は尊敬に値する。
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