ハル

ゴースト・ドッグのハルのレビュー・感想・評価

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)
3.9
ジム・ジャームッシュの映画は、音楽に例えるなら、通常とははずれたところに拍があって、しかも、そのことによって旋律が破綻しているわけではない。リズムをわざと外すことで生まれる独特の空気感が見る者を心地良い笑いの中へ誘う。彼の映画が「オフビート」と評されるのはそのためである。

「ゴースト・ドッグ」では、武士道精神に心酔した孤独な黒人の殺し屋とイタリアンマフィアの対決が描かれている。

「葉隠」の中に流れる武士道精神、軽快なヒップホップのリズム、そして、マーシャルアーツ。これらが見事に溶け合って、独特の旋律を奏でているが、フォレスト・ウィテカー扮する殺し屋が対峙するのは、どこか間の抜けたジジイのマフィアたちである。暴力を描いているのに陰惨な感じは全くなく、うまい具合に緊張が緩和されているので、肩に力を入れないでも見ることができる。

スコープの上に鳥が止まるシーンなどは、緊張と緩和、そして、暴力と調和を対比で描いた、見事な演出である。ジム・ジャームッシュはドイツ系移民の血を引く人だけれども、この演出からは東洋人の感性に近いそれが感じられる。事実、彼は、日本を、そして、東洋をきちんと理解していた。「葉隠」に横溢する武士道精神は、ヒップホップのリズムに乗せられて世界に紹介され、武士道の何たるかを知らない現代日本人の心さえも震わせたのである。
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