ハル

ノマドランドのハルのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
一つの企業が倒産すると、当然のことながら、企業城下町はなくなってしまう。リーマンショック後のアメリカでは、そのような現象が次々と起こった。職にあぶれた労働者(主に60歳以上の高齢者)は車上生活を余儀なくされ、遊牧民のように各地を転々としながら労働に従事する。その受け皿となるのが、たとえばAmazonのような大企業だったりする。

この作品は、2017年に上梓された「ノマド:漂流する高齢労働者たち」というノンフィクションが元になっている。主人公の60代女性を演じるのは、「ファーゴ」や「スリービルボード」でアカデミー賞を二度も受賞したフランシス・マクドーマンドである。

この作品の最大の魅力は、「現代の貧困」の中に垣間見える「自由」である。職にあぶれ家も失い不幸の極みに達したかに見えるノマドたちは、実際には「自由」を得て、広大で美しいアメリカ大陸を、車で旅して回っている。それは、かつて、「イージーライダー」でピーター・フォンダやデニス・ホッパーが思い描いた光景だった。若い頃、自由に憧れたヒッピーたちは、数十年後、アメリカの厳しい現実に叩かれて、図らずも自由を得たのである。この映画では、自由を得なければ決して見ることの叶わなかった「アメリカ」を、存分に堪能することができる。アメリカは、アメリカンドリームのくびきから解き放たれたノマドたちにとって、まさに「自由の国」となったのである。
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