TnT

枯れ葉のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

枯れ葉(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

 商品の肉がムチムチと音をたてレジに積み上がる冒頭、工場の轟音、ラジオからはウクライナ侵攻のニュース。今まさに作られる高層ビルと、それに徹する人々の労働、酒は潤滑油的にホラッパを動かし、そして彼は摩耗していく。そうして死んでく男どもを女性たちは嘆くしかない。そして哀れなブタたちに乾杯が捧げられる。しかしこんな過酷な時代に、こんなささやかな愛が育まれても良いじゃないか。そんな奇跡を目撃できたのもそうだし、「もう一度愛を勝たせよう」なんてキザなことを平気で言える監督(今作のインタビュー記事にて発言)の優しき手の施しを伺えて泣ける。今作の枯葉散るシーン、フレーム外にはスタッフの存在さえ感じるような気がした。あの映画は温もりの手でもって作られた奇跡の映画。だったら自分たちも、どこかでフレーム外から彼葉を舞わして誰かを祝福できるんじゃないか。そう勇気付けられる話だった。

 時代こそ過酷だが、まだ絶望するには早いと言わんばかりの周囲の優しさが嬉しい。画面内の色彩設計も最高に目の中に飛び込んでくる。温もりはそこかしこにあるのだ。

 戦争がラジオでしか聞こえてこない現実。それをシャットアウトするしか術がない我々の不甲斐なさ。しかし色々レビュー読んでグッと来たものあったので引用。「ヨーロッパの「辺境」のブルーカラー労働者から発せられる「ひどい戦争!」という言葉に実質的な力は何一つない。だが同じように感じている市井の人々がこの時代に確かに存在する。それを映画という記録媒体に刻み付けてやるという、ヨーロッパ、そして世界への彼の“呪詛”のような言葉だと私には思えた」(https://note.com/ksk660109/n/n93db2b5e02de?sub_rt=share_b)。映画がチャップリン以来数々の貧しきものたちをスポットライトの下に引き摺り出し、彼らの主張をスクリーンに焼き付けたように、権威なきものの「ひどい戦争!」という言葉もまた刻まれる。

 酒浸り中年の孤独の危機。ここらへんはなんだか痛いほどわかるので、ホラッパが酒をやめるほど現実と孤独がキツイことがよくわかった。カウリスマキ、この手の絶望を理解しつつ、ブレッソンのようなシビアさにオチを持ってこないのが凄いと思う。なんならラストはチャップリンの「モダンタイムス」にまでいく。しかも、「モダンタイムス」の二人に道が設けられてたのに対し、今作は道なき道をゆく二人が映し出される。カウリスマキ、あんたほんと人が良いよ。

 「デッド・ドント・ダイ」の引用で盟友ジャームッシュを弄りまくるの面白いし、シンプルにカップルでいくのミスだろと思ったが、アンサが思ったより嬉しそうで、なんかほっこりした。とはいえこの映画をブレッソンかゴダールか語るのはシネフィル連中をカウリスマキなりに皮肉ってるのかなと思ったり。あとネットカフェもどきと、お寿司のミニチュアがついたマドラーとか、微笑ましかった。

 ラストあたりでアンサがウィンクする予告にもあったところで、なぜかちょうど瞬きして見逃してしまった。というのを、他レビューでも見かけた。今作の人物正面撮影は、全キャラもれなく愛おしく見える佇まいだった(小津と同じ演出に見えて実は意味するものは全く違うから不思議)。アンサはその中でもキュートでドキッとさせる何かがあって、ホラッパのドギマギを観客が身につけたが故の見逃しだったのかもしれない。あのウィンク、でかいスクリーンで直視するには純すぎる。
TnT

TnT