ベイビー

枯れ葉のベイビーのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.5
日本語以外の言語では「恋の予感」を表す言葉がないみたいですね。以前イギリスのBBC が「恋を予見する『翻訳不可能』な日本語」というタイトルで、約2分の動画付き記事を公開していました。

その記事は、「“一目惚れ”という言葉があります。でも、“恋の予感”は違うんです。“初対面で思わず好きになってしまう感覚”なんです」。

という文章から始まり、「“恋の予感”はつまり、恋の予兆とも言うのでしょうか、まだ完全な恋ではないのだけど、それがやって来るという予感…」。

という日本人のインタビューを交えながら「恋の予感」という言葉が持つ意味を、事細かに解読しています。その中で「“恋の予感“は“premonition of love“と英語に直訳できるが、これだと日本人が持つニュアンスとは少し異なる」とも説明しています。

本作はそんな言語化することが難しい、二人の感情の物語。大人の恋の物語。もどかしく求め合う二人の様は「恋の予感」を感じさせ、その繊細な感情が二人の表情や視線をとおして見事に描かれています。大人の恋愛脳を呼び覚ましてくれる、とても素敵な作品です。

ロシア軍のウクライナ進行により、民間人の死傷者数が日常的にラジオ放送から流れる不条理。

食べていく事もままならない中、賞味期限切れの商品は必ず廃棄しなければならないという道理。

鬱から逃れるために酒を浴びるように飲み、酒を飲み過ぎるから鬱になるのだという循環の心理…

この世の理は、全て不条理と矛盾で出来ているのだと言わんばかりに、幸せという灯りが日常から遠ざかって行きます。世界一幸せな国と言われるフィンランドでさえ、逼迫した生活に悩み、心も病んでしまうことがこの物語を通して伝わります。

そんな秋の曇り空のような鬱蒼とした日常に、突如訪れたアンサとホラッパの出会い。すれ違い、求め合い、許し合いながら二人は距離を縮めて行きます。その不器用な恋模様は、この世の負の摂理を浄化させ、重苦しい曇り空に明るい陽の光を当ててくれます。

労働者シリーズの四作目として位置付けされた本作。他のアキ・カウリスマキ監督作品同様、救いようのない日常に一筋の光を射してくれるような作品でした。ラストカットの陽の明るさは、その美しさを映し出しているようです。

あと劇中に流れる音楽がどれも良かったです。竹田の子守唄から始まり、カラオケ王の甘い歌声、そして中盤で歌われた姉妹デュオ、マウステテュトットの楽曲は最高でした。ちなみにこの曲のタイトルは「悲しみに生まれ、失望を身にまとう」というのだそうです。

この曲はホラッパを改心させるキー曲でもあったのですが、ホラッパだけじゃなく、僕の心にも突き刺さるような内容でした。また他にも本作を象徴するようなとても素敵な歌詞がありましたので、その細かな感想はコメント欄に入れておきます。

“恋の予感”から始まる愛の道程

この大人の恋模様を上手く表してくれた、アルマ・ポウスティさんとユッシ・バタネンさんの素朴な演技は、本題の「枯れ葉」と相まってとても素敵な印象が残りました。

アンサのウインクがとてもキュートでしたよ。
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