ナーオー

関心領域のナーオーのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
5.0
音響賞受賞は当然!!!

3月10日に先行上映で鑑賞しました!

現状今年ベスト…とはいえ、誰にでも薦められる映画とは言い難い。内容や作風、好き嫌いが分かれるタイプの映画だと思います。しかしこの映画で描かれていることは"過去"のことではなく、今も何処かで続いているという悲惨な世界の現実を目の当たりにさせられる。今年必見の傑作と言う他ないと思います。

まず映画は色んな見方ができる。
物語を観る映画、映像を観る映画、アクションを観る映画、俳優たちの演技を観る映画。本作『関心領域』は間違いなく、音を聴く映画です。

ナチスによるユダヤ人虐殺など直接的な残酷シーンは描かれず、すべてを観客である我々に想像させる作りがまずは印象的。悪名高いアウシュヴィッツ強制収容所のすく隣の家で暮らす所長とその家族。彼らの生活の背後から聞こえる音。

叫び声、犬の鳴き声、銃声…
夜になると焼却場から上がる煙など。

すべてが曖昧な描き方。
でも隣で何が行われているのか直接的な描写がなくてもよく分かる。不穏な音楽や環境音から嫌でも想像してしまう。

塀の向こう側の惨状を"音"で描く、それに気づいた時が本作最大の恐怖。

その音は我々観客にしか聞こえていないのでは?と思ってしまうほど"普通の生活"を送っている所長とその家族。一つ壁の向こう側では戦争犯罪が行われ、昼夜問わず断末魔のような叫び声が聞こえているのにも関わらず、気にせずに生活を送る家族。この無関心さも恐ろしい。

人間の最も恐ろしいところは無関心なのでは と本作を観た人なら誰もが思うはず。

誰ひとりとしてユダヤ人には無関心という異様さは去年公開されたドイツ映画『ヒトラーのための虐殺会議』を強く連想しました。本作の冷たさや狂気さなどはあちらと非常によく似ていると思います。

怪物のようなアウシュヴィッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘス演じるクリスティアン・フリーデルのなにを考えているのかがよくわからない不気味な演技や存在感も素晴らしいですが、彼の妻ヘドウィグ・ヘスの無自覚な悪意と狂気に満ちた演技が特に素晴らしかったです。

何気ない会話や視線。
他にもメイドへの態度であるとか些細なところで彼女がどういう人間なのかがよく分かる。劇中で唯一、塀の向こう側で行われていることに耐えれなくなった人がいますが、その人の置き手紙をヘドウィグはどうしたか…

個人的には『落下の解剖学』でアカデミー主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラーですが、本作の方が圧倒的に素晴らしかったです。

思わず息を呑むほど不気味な場面の数々。あの真っ赤な場面は真っ暗な映画館で観たからこそ。あとはやはり音響が大事。あの神経を逆撫でするような音楽は映画館でないと意味がない。

先行上映だったのでパンフレットがすぐに読めないことだけが残念です。公開日すぐに購入したいです。
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