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オッペンハイマーのナーオーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
"原爆"を描いた映画ではなく、
それを作った"オッペンハイマー"を描いた伝記映画。

日本では長らく公開が未定のままの作品でしたが、まずは日本公開に踏み切ってくれたビターズ・エンドには感謝。

アメリカでの評価は絶賛一色。アカデミー賞では作品賞を含む最多7冠を受賞し、興行的にもR指定映画としては過去最高のヒットを記録。アメリカ人からすれば本作は近年、最も重要な傑作かもしれないけど… 日本人から見ると近年、最も複雑な映画であることに間違いない。

巷で言われている、原爆を落とされた広島や長崎の描写が描かれていないという意見。本作は広島や長崎に投下された原爆を描いた映画ではなく、それを作ったロバート・オッペンハイマーを描いた映画なので広島と長崎の被害の描写が少ないなりの理由はしっかりあると思います。ただそれでも広島と長崎の死者数や被害への言及やアメリカ映画では珍しく東京大空襲への言及もあったり、なによりも原爆落とさなくても日本は戦争に負ける、それでも原爆投下を強行した当時のアメリカ政府をかなり批判的に描かれていました。また京都を標的から外した理由をジョークになっているという意見がありましたか、劇中では笑えないジョークとして描かれ、登場人物全員がそのジョークに笑っていない。これをジョークと受け取り笑う観客がいれば、むしろその観客の方がおかしい。

ただ… ここからは苦言が多くなります…

まず日本とアメリカでは"原爆"の捉え方が全く違う。日本人としては原爆は広島と長崎の記憶が強い。しかしアメリカ人からすれば東西冷戦、ソ連がアメリカに核を落とすのではないかという恐怖の対象。その脅威の自ら作ってしまった… という捉え方は間違いではないけど日本人としては非常にモヤモヤしました…

そしてノーランの演出。
個人的にノーランの映画はそこまで好きではない。その理由として暴力的な場面になるとちゃんと映さずに逃げていることです。例えば『ダークナイト』、ジョーカーが"鉛筆を消す件"や『テネット』での厨房ファイト。"おろし器"を使って… や『ダンケルク』は言わずもがな。もちろん、そういう演出が好きなノーランファンの方もいると思うけど、僕の場合は"やるならちゃんとやれ"といつも思う。

それは本作に対しても同じ。

オッペンハイマーが幻覚見る場面。
この場面自体は本作で最も印象的な場面でした。断末魔のような叫び声は恐ろしかったけど、被爆して顔が焼け爛れた女性。あれはもっと見るに堪えないくらいグロテスクするべき。実際はあんな乾燥肌のようなもんじゃない。

そして最大の問題点は核爆発が核爆発に見えないこと。

劇中のトリニティ実験の場面での大爆発は確かに大爆発。でもどう見ても核爆発には見えない。通常の爆薬を大量に爆発させても当然ながら核爆発とは程遠い。もちろん、いくらCG に頼らないというノーランが本物の核爆弾を使って撮影はできないし、許させない。今回はこのノーランの拘りが裏目に出たと思います。

本作に比べたら『インディジョーンズ クリスタル・スカルの王国』や『ウルヴァリン SAMURAI』の核爆発の方が核爆発に見えました。あれらの核描写も賛否両論ですが、本作よりかはマシ。

などなど、正直手放しで褒めることはできない。僕は賛否で言うなら丁度その真ん中ですが、少なくとも観てよかったです。今のアメリカでしかも豪華キャストでまさかの大ヒット… こんな映画が作られたこと自体凄いと思います。

映画の9割近くは会話劇なので観るなら絶対にIMAXっていう訳でもないので、大勢の人が観て、議論し合う。それが一番正しい鑑賞方法だと思います。
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