ラウぺ

哀れなるものたちのラウぺのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
天才外科医のゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)は橋から身投げして死亡した女性を蘇生させ、新たにベラ・バクスター(エマ・ストーン)と名付けて養育を始める。ベラの頭はまっさらな状態で蘇生したので全てのことを改めて教育しなければならなかったが、貪欲な好奇心と目覚ましい発達ぶりで急速に成長を始める。ゴドウィンが助手として雇ったマックス・マッキャンドレス(ラミー・ユセフ)は無垢なベラに好意を寄せるが、やがてベラは弁護士のダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファ―ロ)と駆け落ちしてしまう・・・

観る者の予想の遙か斜め上を行く鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の最新作。
死者を蘇生させ、無垢なるものが成長を遂げる物語、というと、これはやはりヨルゴス・ランティモス流の『フランケンシュタイン』なのかと思いきや、そうだとも言えるし、そうでもないとも言える。
メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』では怪物は無垢なるものからその容姿のせいで創造者のヴィクターをはじめあらゆる人々から忌み嫌われ、そのせいで復讐の鬼となる。
旺盛な知識欲と人知を超越した能力の発揮という点でベラはフランケンシュタインの怪物と相似形ではあるものの、その後の成長の様子は『フランケンシュタイン』とは大きく異なります。

映画全体の雰囲気はキッチュで極彩色に溢れ、スチームパンク風なセットや衣装にさまざまなガジェットの嵐はジャン=ピエール・ジュネの『デリカテッセン』風でもあり、リュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』風でもある。
全体の雰囲気は予想以上にコメディ風であり、どことなくウェス・アンダーソン風味も感じますが、ウェス・アンダーソンのような軽妙さやエレガントな感じとは違い、舌がピリピリするような原液の猛毒が随所に仕込まれている辺りの容赦なさは明らかにヨルゴス・ランティモス風としか言いようのない作り。

ゴドウィンの顔を縦横に分断する切り刻まれた風貌と狂気を帯びた科学者然とした雰囲気は、科学の前には社会通念や善悪の是非などというものは殆ど影を潜め、同じく天才的外科医だったという父から受けたさまざまな施術や実験の話はゴドウィンのそれを大きく上回る狂気さが滲む。
これは『メイドインアビス』のボンドルドを彷彿とさせます。
そして自ら倫理観など欠片もないと言うダンカンが、あらゆる常識や価値観を吹き飛ばし、貪欲に新しいものを求めるベラを連れ出すことで、ベラの欲望は無限に解放される。
無垢なるものからさまざまな体験を通してあらゆる知識や知性を備えていくエマ・ストーンの演技の圧倒的な存在感は、この“お行儀の良い世界”とは徹底的に無縁な世界をどこまでも突き進む。
予想の遙か斜め上を行く物語は驚愕のあまり思わずスクリーンに前のめりになって見入ってしまうのですが、ある意味でなんでもありの物語の中にもベラ成長と共に、次第にベラの求める真理の真ん中に焦点が定まってくると、今まで体験したことのないような地平が開けて見えるのです。
圧倒的な作家性の押し出しの洪水に飲み込まれつつ、劇場を後にしても、興奮が覚めやらず、さまざまな場面を反芻しつつ余韻に浸ることができるのでした。

今年もまだ1月もようやく終盤というところですが、この作品を凌駕するような圧倒的なインパクトのある作品が年内に出会えるのかどうか?
少なくとも本作を2023年に観ていたなら、圧倒的に1位に推したい。
これは数年に一度というレベルの傑作に違いない、という気がしました。
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