絶望を渡り切れ。

キム・テゴン監督、イ・ソンギュン主演による韓国製作のスリラー。
海に囲まれた空港に繋がる橋の上で多重事故により有毒ガスが発生し、パニックに陥る人々の姿を描く。
主人公となる国家安保室行政官のジョンウォンをソンギュン、ガソリンスタンドの店員をチュ・ジフン、政府機関の研究者をキム・ヒウォンが演じているほか、ムン・ソングン、イェ・スジョン、キム・テウ等が登場。
物語は、謎の動物実験らしきものが報道されるドキュメンタリーのようなシーンでスタートするため、不穏感は満載。
次には、留学しようとする娘を空港に送るためクルマで橋を渡ろうとするジョンウォン父娘や、その途中で立ち寄ったガソリンスタンド、はたまた空港ではパスポートの有効期限切れにより海外ツアーに出ることができなかったプロゴルファーと、キャディーであるその姉等々が順番に映し出されるため、群像劇的な雰囲気も醸し出している。
そして、やはり序盤のハイライトは濃霧が立ち込める中、動画でライブ中継をしながら橋上を暴走するフォード・マスタングがスピンしたことをキッカケに、発生した玉突き事故のシーンで、その迫力、台数は近年観た中でもトップレベルのもの。
また、有毒ガスが発生して橋上が孤立、謎の軍事実験体であるエコーが脱走、救助に来たヘリコプターが墜落、そしてそのヘリコプターが吊り橋のケーブルにダメージを与え橋が崩落と、物語が止まりそうになると困難な状況が発生と、暗い映像が続く中、メリハリが効いていたのは、この手のパニック・アクションとしてお手本のような内容となっている。
そんな緊張感あふれる中でも、韓国作品らしく、ジフン演じるレッカー車の男がコメディリリーフ的な役割を担い、要所要所で笑いを引き起こしていたのは流石の一言であると同時に、思いのほかポリティカル・サスペンス的な要素が盛り込まれていたのは意外だったところ。
クルマ好きの視点からすると、クラッシュした多くのクルマの中に、少し古めの日産・キューブやマーチ、ホンダ・フィットといった日本車が登場していたことに加え、トランクスルーを駆使したり、はたまたバスのバック走行等、クルマを中心としたアクションがあったのは見逃せないポイント。
セット感を出さないよう、視界が悪い夜の濃霧という状況設定が巧みであり、孤立した橋の上で繰り広げられるアクションに、何が起きているのかわからないスリラー、そして社会派的要素に要所要所でのコメディと、閉ざされた空間での物語を引っ張るには十分な要素が詰め込まれており、何とも韓国製作らしい作風となっているとともに、前述のように全体的に暗い映像が続くことから、家庭のリビングはもとより、タブレットやスマートフォンのディスプレイでは何が起きているのかさっぱりわからず、面白さが半減してしまう可能性もあるため、是非ともスクリーンで観て欲しい作品であり、ユ・ジェソン監督『スリーブ』同様、ソンギュンの遺作と位置付けられており、その勇姿を目に焼き付けておきたい良作。

信用できないが、信用するしかない。

久しぶりの韓国映画、そして、久しぶりのチュジフン。

チュジフン、なんでこういう役がここまで似合うのか。変なロン毛でテンション先行型で調子が良いクセにいざという時は途端に臆病になるキャラクター。
この映画は彼のこのキャラクターで成り立ってるというか、盛り上がってくる。

相変わらず、“パニック”と“政治”の掛け合わせがうま過ぎる韓国。

今回はかなり“パニック”に寄せてきていて、さらにジェットコースタームービーとしてテンポとインパクトをさらに加速させるために極力“行間”すらも短縮してきた感じ。

だから登場人物の“アクション”と“アクション”の間のやりとりがないから「あ、もう、それ、そういことになったのね」みたいな感じが多々あるけど、それはそれとして本筋の“パニック”と“政治”における駆け引きや話の動きの展開が早い。

いわゆる“犬好き”の人にはなかなか過酷な映画かもしれない。
今回、彼ら市民に襲いかかる“それ”は、まぁ言ってしまえばそういうこと。

もっと、『グエムル』的な“異形”系のクリーチャーを想像していたが、そこは逆にリアルだった。
とはいえ、かなりCGで“それ”の疾走感や力強さを出している。

同じ数かそれ以上で、しかも武装してるならそこまで大騒ぎすることでもないようにも思うけど、観てみたらそうではないことがよくわかった。

そして、さらに倒壊しかけている橋、という設定がジェットコースターに拍車をかけている。
ただただ“それ”と対峙すれば良いという話でもなく、足元の状況において物理的な空間としての制限があり、“タイムリミット”がある。

しかも、なぜだか深い霧もかかっている。

そういう意味では何十苦にも折り重なった最悪の状況下で、起こり得る全ての“パニック”が一斉に解禁される感じ。この絶望感はなかなかだった。

それもすべて、黄色いスポーツカーで霧の中をわけわからんテンションとスピードで疾走するアホのせい、コイツがすべての元凶と言って良い。

この後、コイツは何1つ言及されないから忘れがちだけど、思い出してしまうとコイツへの憎悪が膨れ上がってくる。

その点においては同じキャラクターカテゴリーっぽいチュジフンが良いヤツに思えるし、主人公のイソンギュンの当初の“政治的な思惑”も、パニックを抑制する働きもあったのかも知れないと思えなくもない。

最初の遭遇シーン。
橋の路肩に頭をガンガンぶつけてるシーン、あれ、得体が知れなさ過ぎて、めちゃくちゃ不気味。

“それ”に対しても結構悲壮的な背景も忍ばせ、結果的に“政治”や登場人物に繋げてくる。

突発的なディザスタームービーとも違って、相関関係を繋に繋ぐ韓国の“パニック”映画、やはり見どころ多くて面白い。

今日はアメリカのアカデミー賞の発表の日で、映画好き界隈は『アノーラ』、『ブルータリスト』、『FLOW』、『ノーアザーランド』などが賑わう中、これを観に行って悔いはナシ。

※24年3月、映画オススメブログ、始めました。
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作品単発のレビューはここでやっているので、こちらは企画記事メインに挑戦したいと思います。
皆さん、時間がある時にでも見に来てください。
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濃霧立ち込める空港大橋で大規模な玉突き事故が発生し、留学する娘を送ろうとしていた行政官ジョンウォンが巻き込まれる。タンカーも横転して有毒ガスが撒き散らされ危険な状態に陥った上、政府の極秘プロジェクトで移送されていた改造軍用犬軍団まで暴走してパニック状態に！そして救助ヘリも犬によって墜落させられ橋に激突し崩落の危機！濃霧と軍用犬を切り抜けて橋から脱出できるのか！？な話

映画を愛し、映画に愛されてるので試写にて。いつもありがとう…。崩落寸前の橋にやばい改造犬が暴走するという「どっちかでいいだろ」と思わせてくれるパニックスリラー。けっこうおもろい！目の前にある危機と政府の思惑と二つ相対しながら娘を守らなきゃいけないジョンウォンを軸に、緊張感が持続する構成はエンタメ的でかなり良いです

さらに、出てきた瞬間にその役割が最後まで完璧に予想できるゴルファー姉妹＆認知症の妻を介護するおじいさん＆コミックリリーフ的チンピラの分かりやすいメインキャラ達の配置もお見事！韓国はこういうキャラクターメイキングがかなり巧みなような気がする（気のせいか？）。全くその存在を知らなかったものの、見てみたくなる舞台設定のおかげで結果的にかなり楽しめました。2月末だけど見よう！

ちなみに主演のイ・ソンギュン氏（半地下の家族にパラサイトされる社長の人）、薬物周りのゴタゴタに巻き込まれて自殺してしまい、これが遺作らしい。良い演技だったのにそんなアホな〜。敬具