このレビューはネタバレを含みます
【愛はすべてを越えて】
二代目ジェームズボンド、ジョージレーゼンビーによる幻の007。
殺しのライセンスを持つ男、"007"ジェームズボンドの内面を深く掘り下げた作品。
秘密結社スペクターのボス、宿敵ブロフェルドを捕らえる任務を遂行してた007がその道中で今作のボンドガール、トレーシーと出会い相思相愛となる、純粋な愛を描いたラブストーリー。
ヒロインが死ぬ衝撃的なラストが印象に残る007史上最大の異色作だ。
この映画が公開された60年代後半はアメリカンニューシネマの時代。
当時は『イージーライダー』『俺達に明日はない』といった歪な社会構造の中で反抗する人間の心情を鮮明に映し出したリアリティな映画が流行しており、そしてその映画の最後で主人公が散っていったのと同じように、映画界を代表するスパイ、ジェームズボンドもまた、その時代の大きな波に飲まれていくのであった。
この作品が提示した
《暴力と色欲に満ちた男が本当に幸せになれるのか》
《本当に人を幸せにできるのか》
《その男は何のために戦っている》
という問いかけは、後の007作品でもしばしば取り上げられており、ラストのボンドの姿とセリフからは、逃れられない宿命を背負った男の切なさと孤独と愛が満ちている。
話が堅実なので派手さは抑えめだが、体を張ったアクションやクルマ、スキー、ボブスレーによるスピード感満載のチェイスシーンが多くあり、クライマックスでの銃撃戦も迫力満点だ。
そして昨日観た最新作『ノータイムトゥダイ』
(もしもトレーシー"テレサボンド"がその後生きていたら?)を描いたようなストーリーだなと思った。
引退したジェームズボンドが再びスパイとしてカムバックする『ネバーセイネバーアゲイン』な物語は今作や『殺しのライセンス』『スカイフォール』と同じように、007というコードネームを越えてジェームズボンドという男の内面を深く掘り下げようと試みている。
今見てみるとストーリー展開がチグハグで、(アレ?)って引っかかる箇所も多かったけど、最後に『愛は全てを越えて』が流れるラストは何度見ても素晴らしく、とても感動的で励まされる。
007は彼女達に逢えたのか。
時間はいくらでもある。
【疲れて眠っているだけさ】