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女王陛下の007のmurabonのレビュー・感想・評価

女王陛下の007(1969年製作の映画)
5.0
007シリーズといえば映画冒頭のガンバレルですよね。
第一作の「ドクター・ノオ」からずっと続く007シリーズのトレードマークです。
ダニエル・クレイグ版になってからは変則的で、「カジノ・ロワイヤル」ではオープニング前にそれっぽいシーンがありましたが、厳密には無し。
「慰めの報酬」と「スカイフォール」では開幕ではなくエンディングに配置。
「スペクター」ではやっと開幕にガンバレルが復活。しかし、歩き始めから思いっきり相手に銃が見えちゃっているのがものすごーく気になります。粗野なダニエル・クレイグ版ボンドらしいのでこれはこれでいいでしょう。「スカイフォール」のガンバレルでも実はチラチラ見えてます。「慰めの報酬」では見えてません、流石です。
アマプラ配信で確認しやすくなったので皆さんもチェックしてみてください。

ガンバレルも細かく見ていくと変遷がおもしろいです。初期三部作のガンバレルシーンは実はショーン・コネリーではなくスタントマンのボブ・シモンズが演じています。
ボンドの服装も第9作目まではスーツ姿でした。
「私を愛したスパイ」ではシリーズ10作目&15周年を記念してかタキシード姿のボンドが登場しそれ以降の定番となります。
20作目&40周年の「ダイ・アナザー・デイ」ではボンドが撃った弾が観客めがけて飛んでくるというサプライズもありましたね。
最新作の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」ではガンバレルがどのように扱われるのか。
オープニングに登場するのかも注目ですが、今まで実はすべてスーツ姿だったダニエル・クレイグが最初で最後のタキシード姿での登場となるのかが私の中での最大の注目ポイントです。

シリーズ6作目となる今作「女王陛下の007」。ショーン・コネリーの引退を受けて今作限りのボンド役となったジョージ・レーゼンビー最初で最後の007。ガンバレルも特徴的で、ひざまづいて銃を打つ珍しいボンドが見られます。しかも血が流れると共にボンドが消えてしまうというレーゼンビーボンドの未来を暗示するような演出となってしまいました。

公開当時は不評であったという本作ですが、後年再評価され今では人気ランキングでも上位に食い込むことも多い名作。私も大好きな作品です。

ストーリーはほぼ原作を踏襲。前作に当たる「007は二度死ぬ」がSF色が強すぎた反動もあってか、アクションや展開含めてシリーズの中ではリアル路線の作品に仕上がりました。

前作にあたる「007は二度死ぬ」でブロフェルドと顔を合わせているはずなのに、なぜお互い気が付かないのかという論点については気にしないようにするしかないです。原作では「女王陛下の007」の次作が「007は二度死ぬ」で順番が逆になってしまっているので仕方ないところです。

世界各国に美女を派遣してウィルスをばらまこうとする陰謀は何となく今のコロナ禍を思わせるところがありますね。このあたりのプロットは先日公開の「ブラック・ウィドウ」に引用されててニヤニヤしました。

オープニングクレジットでは主題歌が流れないという珍しいものになりましたが、テーマ曲は最高にかっこいいですね。24作目「スペクター」の予告編ではこのテーマ曲が流れるシーンがあり、えっ?!女王陛下の007的な作品になるんですか?!っていう衝撃がありました、実際めちゃめちゃ意識されてましたね。

ボンドを演じたジョージ・レーゼンビーはオーストラリア出身で、イギリス領ではありますが、今の所惟一となるイギリス本国外出身の俳優です。
出演時は30歳と若くコネリーと比べてもアクションのキレが良いですね。今の基準で見て決してイケメンとはならないかもしれませんが、誰が演じても1000%叩かれるという状況の中で良く演じきったと思います。撮影中も色々とトラブルが絶えなかったようですが、ショーン・コネリー以外が演じてもボンドは成立するということを証明した功績は大きいです。

ボンド・ガールを演じるのはダイアナ・リグ。彼女が演じたトレーシーはシリーズでも重要な役であり、演技経験のほとんど無いモデル出身のレーゼンビーをしっかりリードし良い演技を見せてくれました。

ブロフェルド役には前作から変わってテリー・サバラスが登場。シリーズで一番アグレッシブなブロフェルド、クライマックスで基地が爆破される際の悲しそうな表情が印象に残ります。

その他脇を固める俳優陣も印象的。
ブロフェルドの秘書のイルマブント、トレーシーの父親で犯罪組織のボスのドラコなどレーゼンビーをサポートするかのように盤石な演技を見せてくれます。
ドラコのキャラクターはダニエル・クレイグがモデリングで登場する「007ブラッド・ストーン」というゲームにもこっそり登場していましたね。

アクションについてはかなり力が入っており、今の水準で見ても楽しめます。
格闘シーンは監督のピーター・ハントお得意の低速度撮影でキビキビした編集が素晴らしい、パンチの重みが感じられるシーンが多くて好みです。
本作で特筆すべきはなんと言ってもスキーアクション!撮影を含めて素晴らしい仕上がりです。ノーランが大好きなのも頷けますね。
クライマックスのボブスレーチェイスも迫力満点で素晴らしい。ボンドがカーリングするシーンもあって冬のスポーツ目白押しです。

本作がシリーズ中でも特別な作品となっている理由は見た人なら分かる通りクライマックスの展開です。
殺しの許可証という永遠に逃れられない業を背負ったジェームズ・ボンドという男は幸せになれるのかという問いかけ。今作中では悲しい結末を迎えることになります。

興味深いことにスパイアクションの人気シリーズミッション・インポッシブルシリーズも同じテーマを扱っていますね。あちらでは悲劇的な結末かと見せかけて違った未来を見せてくれました。

そして、いま、現行のダニエル・クレイグ版でも同じ問いかけがなされています。
新作ではそこにどういった回答を出してくるのかとても楽しみです。
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