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007/慰めの報酬のmurabonのレビュー・感想・評価

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)
5.0
007シリーズ22作目となるダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド第二弾。
本作「慰めの報酬」はシリーズ16作目の「消されたライセンス」以来となるカタカナ読みじゃない日本語タイトル。
原題の「Quantum of Solace」をカタカナ読みでは全く意味が分かんないですし、短編である原作小説の邦題「ナッソーの夜」でも合わないしどうすんのかなと思っていた中でのこの邦題。悪くないです。配給さんは良くやったと思います。
「アマフルフィ 女神の報酬」、「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」とかしばらく本作の邦題に影響された作品が出てきてたのは微笑ましかったですね。
アマルフィについては映画は私的にはイマイチでしたが、関連動画でカジノ・ロワイヤルごっこをしてたり007好きな人が作ってんのかなって感じがしてちょっと面白かったですね。

これまでの007シリーズは、ボンド周辺の登場人物が同一であることや、3作目の「ゴールドフィンガー」を除くショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー時代の作品で敵が「スペクター」であることを除いてストーリー上の直接的な繋がりは非常に薄いシリーズでした。

上記したとおり007は基本的にはどこから見ても付いて来れる一話完結型の作品でしたが、「慰めの報酬」はなんと前作「カジノ・ロワイヤル」の直接的な続編だっていうじゃないですか。公開当時は衝撃を受けましたね。今後のシリーズの展開に不安もありながら、予告のすさまじいアクションとダニエル・クレイグの変わらないカッコ良さ、ワルサーPPKの復活に大きな期待が膨らみました。

ものすごいハードルが上がった状態で鑑賞した本作、初見時は皆さんも感じた通り色々と思うところがありました。「カジノ・ロワイヤル」の時みたいに拍手喝采っていうテンションにはならなかったことは事実ですが、100回くらい鑑賞した今となって思うのはこの映画は間違いなく007映画として名作だということです。

007シリーズの中でも最短の106分という上映時間の本作。無駄な部分は極限まで削ぎ落とされています。映像も会話内容も情報量が半端なく多いため初見では理解が追い付かないシーンもあるはず。これは日本人観客にとって厳しいところで、字幕版では内容がかなり端折られているので難解度が増しています。吹替版を鑑賞するとものすごい分かりやすいはずです。
2回目以降の鑑賞では無駄なシーンがなくテンポの良さが心地よく感じます。

公開当時は007らしくないという意見も聞かれた本作ですが、ダニエル・クレイグのシリーズを振り返ってみると本作のボンドが一番しっかり仕事をしてます。しっかり陰謀を追ってるんです、ボンドのプロとしての仕事振りを堪能できる素晴らしい内容です。ボンドがMの指令を無視するのは昔からよくある事なので、平常運転です。
世界各国を股にかけて活躍する展開は観光映画という007の原点に立ち返ったものであり、正に現代的なアップデートが成された作品です。
ユニバーサル貿易の名詞から電話を逆探知して敵を追うシーンなんかはすごくいいです。その後のMの的確な対応、「007にもチャーター機」をっていうシーン、後半のホテルでのシーンなどボンドへの信頼が感じられて最高です。

あとは昔と比べて真面目すぎるっていう意見もありますが、そんなことないと思います。
手がかりになる人物を殺してしまったボンドがMに対して、「あいつは脈なし(2つの意味で)」とか、高級ホテルにチェックインして「宝くじが当たった数学教師」とか、裏切り者に灰皿をプレゼントしてたMに対して「あいつ禁煙してましたよ」とかダニエル・クレイグのボンドらしい皮肉が聞いたギャグがしっかり入ってて笑えます。「スペクター」みたいにギャグシーン入れましたよー、こういうのがいいんでしょ?っていう不自然さがなくて良いですね。

この映画の評価が分かれるポイントの一つはアクションシーンのカット割りではないでしょうか。「ボーン・スプレマシー」の影響を受けまくったとしか言えない速すぎるカット割りはかなり見ずらいですよね。後半はまだ落ち着いてますが、前半のカーチェイス、イタリアでの追跡シーンはかなり見づらく所見では全体像が把握困難です。
ボンドの心境にシンクロした演出なのかもしれませんが、評価は難しいところですね。
ただし、アクションの内容自体は最高ですし、何度も見直すと構成も見事なんです。ボンドの状況に合わせた直感的な行動が見えて、素晴らしいアクションです。

陸海空すべてを制覇するアクションシーンはどれも見応えがあります。
特にクライマックスの燃え盛るホテルでのアクションはかなり気合いの入っている撮影で素晴らしい。
ホテルでビールを運んでくれるお姉さんはなんとチャールズ・チャップリンのお孫さんとか。シリーズでは珍しいパンチラシーンがあります。

ダニエル・クレイグは本作の体型が全作品中でベストでしょう。衣装の着こなし、アクション含めてすべてのシーンが最高にかっこいいです。

ボンド・ガールのオルガ・キュリレンコは非常に魅力的でしたね。ちょっと色黒でボーイッシュな感じが私の好みドンピシャです。

悪役のマチュー・アマルリックもひ弱そうな感じがボンド映画の悪役っぽくてすごくいいです。最後の戦闘シーンも素人がブチギレたら逆に攻撃が読めなそうな感じがして動きに説得力があります。

あとは前作に引き続き登場するマティス。味わい深いキャラクターでしたね。

この時点ではスペクターにつなげる予定は全く無かったであろう敵組織クアンタムの登場もすごくワクワクします。オペラ会場での会議シーンはこれぞ007っていう設定で最高です。オペラの演題、カットバックの演出など狙いすぎな感じもありますが、その後のアクションも非常にかっこいいです。
悪役が企む陰謀が水資源の独占っていうのも非常に良い着目点だと思います。

公開当時から不遇な扱いを受けている気がする本作ですが、ダニエル・クレイグ版では実は古典的なボンド映画に最も近い作品なのではないでしょうか。「カジノ・ロワイヤル」は誕生譚ですし、「スカイフォール」はボンド映画というより007論的な作品ですし、「スペクター」はボンドの身内が絡んできたりで番外編みたいな内容ですからね。もう一作くらいノーマルなクレイグ版007を見てみたかったというところですね。

全体を通して中身が薄いみたいな意見もありますが、描き方が最小限なだけで薄くないんです。余白は削ぎ落としてますが、噛めば噛むほど味が出る素晴らしい作品です。
主題歌は単体で聞くとイマイチなんですけど、劇中で聞くと悪くないのが不思議ですね。

とりとめもない内容になりましたが、皆さんも新作が公開されるこの機会にもう一度見返してみてはいかがでしょうか。将来もっと評価される作品になると私は思ってます。

※「カジノ・ロワイヤル」に関して書き忘れましたが、オーケストラの生演奏で映画を見るシネオケというイベントがありますが、あれの「カジノ・ロワイヤル」公演に行ったことを思い出しました。
二階席でスクリーンも遠くてあんまり良い席ではなかったんですけど、素晴らしい演奏でした。主題歌のYou Know My Nameは流石にそのまま流れんのかなと思ったら、しっかりオーケストラの皆さんが演奏してて感激。映像とのシンクロも完璧て演奏する皆さんの技術には圧倒されました。指揮者の方もロジャー・ムーア時代のワインを呑む男を意識したのか分からないギャグを披露してくれて最高でした。
ほんとは今年に延期された「スカイフォール」のシネオケも行きたかったんですけど地方住みなのでコロナ的に会社からNGだったんで参戦できず悔しい思いをしました。また機会があればいいなぁ🥺
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