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絞殺魔のsleepyのネタバレレビュー・内容・結末

絞殺魔(1968年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

アルバート?アルバート? *****



眩惑的でうすら寒くなる構成と表現に驚嘆した。直截描写は少ないが、人によっては(特に後半部分)精神的にこたえる作品。実際に1962年~1964年にボストンを恐怖に突き落とした連続絞殺事件を題材にし、表現手法を移動させる(後述)という明確なビジョンと実験的手法で描いた点が今なお斬新。フライシャーが意欲的に取り組んだことが窺われる労作であり秀作。

前半では、犯行の発覚と、事件に振り回される捜査陣・過程がドキュメンタリー・タッチで淡々と描かれ。分割画面の多用がゾクゾクするような多角的視点を提供する。さながらどこかの一室で鑑賞者が多くの画面をモニタリングしているかのようで印象的だ。

中盤ではトニー・カーティス扮するデサルヴォの犯行が描かれます。我々が目撃者・観察者になりその場に立ち会っているかのような臨場感。

そして後半、逮捕後はまるで内視鏡で見るかのように、カメラは彼の内面へもぐりこむ。その奥底は真っ黒な(あるいは真っ白な)空洞のようで恐ろしい。このあたりは華麗といっていいほどの撮影アイディアに満ちている。フォンダvs. カーティスの取り調べで描かれる犯人の「頭の中」、犯行フラッシュバックにクラクラさせられる。彼は常人が届かないところへ行くが、原因等は説明せず、奇妙な余韻を残して映画は幕を閉じる。

異常犯罪を正面から題材にした作品は、現在、事欠かかないが、本作公開当時以前には『サイコ』(ヒッチコック)がある。本人が自分自身に苦しんでいて、行動に無自覚という本作との共通点がある。ヒッチコックの『フレンジー』も想起するが、そちらは快楽嗜好で、どこかヒッチのそこはかとないシニカルなユーモアが感じられたものだ。

後年の『羊たちの沈黙』『セブン』のように、捜査側が犯人の闇に引きずられる、捜査側に犯人が触手を伸ばすという設定はなく、とても静謐で(音楽はなかったと思う)ハラハラドキドキは薄目(これらの点で評価が分かれるかもしれない)だ。ストーリーで観る作品ではなく、その濃厚な構成・表現に「酔う」映画と思う。

冷静沈着さが素晴らしいヘンリー・フォンダはじめ、役者たち(ジョージ・ケネディ、マレー・ハミルトン、ウィリアム・マーシャルら)はみな堅実でよい。出色はやはりそれまでのイメージを捨てたトニー・カーティスの尋常ではない目つき顔つき。本人にとってかなりの冒険だったのではないかと想像する。この後カーティスは大丈夫だったか。尋問室での、あの一人芝居・・・。「アルバート?」「アルバート?」。そして無音の・・・。心底ゾッとさせられる。

フライシャーの丁寧かつ野心的な面がいかんなく発揮され、サイコものの系譜のいくつかの頂点のひとつといってよいかと思う。後味は悪いが、忘れがたい1作。

The Boston Strangler 1968 U.S. 20th Century Fox
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