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007は二度死ぬのsleepyのレビュー・感想・評価

007は二度死ぬ(1967年製作の映画)
4.4
猫があばれたから・・ ****



    製作当時わが国でも大人気だった元祖エンターテイメント系スパイ映画の新作が日本でロケ撮影されるとはそりゃ一大ニュースだっただろう。
方向性を決めかねていた第1作、正統派スパイ・アクションとしての地位を確立した第2作。悪夢的で名場面の多い第3作。その流れを引きつつも観光映画たる側面をもつ大作の第4作。そして本作は、『ゴールド・フィンガー』的誇大妄想性をパワー・アップさせた手抜きなしの仕上がりとなった。

まずはいきなり宇宙から始まる意表をつくオープニング。いわば超大作宣言だ。当時、東西冷戦まっただなかでジェミニ計画が行われていた時期である。米ソが宇宙の覇権を争っていた時期。この確執が本作のスタートであり、米ソ衝突を防ぐために英国諜報部007の出番と成るわけ。原作にはこのようなプロットはない。共通しているのは、日本が舞台ということ、
登場人物(タイガー田中、キッシー鈴木、ブロフェルドら)、忍者ぐらい。大幅な脚色がなされた一大スペクタクルに変身したわけだ。

★以下、少し内容に触れています。

本作の楽しみは1965年ころの日本の情景が楽しめること。東京では、旧蔵前国技館、銀座界隈、駒沢通り、ニュー・オータニ、代々木界隈、営団地下鉄、東京湾など。しなびた裏通りでのカーチェイス(笑)もある。当時を知る者にはたまらない風景だろう。レトロな風情横溢だ。『ウルトラQ』『ザ・ガードマン』のころの東京。そして神戸港。そこでいささかしょぼいアクションあり・・。日本の諜報組織の訓練ベースという設定の姫路城。ボンドが偽装祝言を挙げる(笑)ロケは熊野那智大社である。そしてなんといっても素晴らしいのが、スペクターが火山口(湖になっている)の真下をくりぬいた設定のロケット発射基地がある九州。ロケは鹿児島の海岸。しなびた田舎町の風情がノスタルジックだ。そして宮崎との県境の霧島山系。このパノラマは他のボンド映画の海外ロケに負けるとも劣らない美しさと壮大さ!ここではQの秘密兵器ジャイロ「リトル・ネリー」が大空中戦を繰り広げる。本作の屋外アクションのハイライト。

スペクターが建設した火山湖地下のロケット基地の造形。東京ドームぐらいはあろうかという巨大なセットが英国パインウッドに作られた。(当時から見て)近未来的ではあるが、今の目から見ればレトロ感たっぷりなデザイン、けっして安っぽくはない。いやむしろカッコイイ。その天井がゆっくりと全開するところはぞくぞくさせられる。
宇宙関連シーンがわりと多いのもどこか子ども心をくすぐる。スパイ映画も宇宙へ飛び出す時代なのかと当時は少年のみならず、大人も興奮したのではないか。

そして思わず苦笑してしまうシーン。ボンドが日本人村人に見えるようプチ整形をした姿が猿なのである。浜美枝が村人に「主人です」とか紹介しても誰も突っ込まない。潜入時は鼠男ルックに吸盤がついたような特殊スーツ(?)、タイガーの自宅の接待マッサージ風呂・・・。誤解された日本観も笑ってこらえるのがたぶん正解。「忍者」の訓練シーンはご愛嬌。そしてドナルド・プレザンスが演じているのがブロフェルド。はじめて顔を出したのだ。短い出番ながら鮮烈である。爆破音にパニックになるブロフェルドの猫。なぜ次作でサバラスになったのだろう。猫が暴れたからなのか。★

私が、おいっ、とつっこんだのは日本に到着するボンド。何キロ泳いでるんだ。発射管から打ち出されるボンドはさながら出川哲郎。霊界広報マン丹波哲郎も案外さまになっている。しかしあれだけ手裏剣、剣術訓練しておきながら、奇襲時はほとんどマシンガンと手りゅう弾、ってマジか、オイ。
おバカムービーとして楽しむもよし、SF要素ありの日本観光映画として見るもよし。何回か見ても案外あきない。

特筆すべきは、名手フレディ・A・ヤングの撮影(『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『ライアンの娘』等)だ。当時本作撮影中だったスタッフは日本でフレディ・A・ヤングの『ドクトル・ジバゴ』におけるアカデミー撮影賞受賞を知ったということだ。ジョン・バリーの音楽、ナンシー・シナトラのスローな主題歌も良し。脚本はロアルド・ダール。童話やちょっと変わったミステリが得意で『チャーリーとチョコレート工場』の原作で知られる。本007はダールの「大人のための寓話adult fantasy」といっていいかもしれない。

本作は世界、日本でも大ヒットした。しかしスタッフが「ちょっとやりすぎたかな、ペロッ」と反省し、みそぎとして次作『女王陛下の007』を作った・・・(ウソ)。

原題:You Only Live Twice 1967年 117分、英国、Eon Pro. United Artists オリジナルアスペクト比(もちろん劇場上映時比を指す)2.39:1、Panavision(anamorphic)、カラー(Technicolor)、ネガ、ポジとも35mm
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