カツマ

ザ・クリエイター/創造者のカツマのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.6
いつだって記憶の中に君はいる。幸せだった時間は過去になり、縋り付くような残骸だけがそこに残った。どうしても、もう一度愛する人に出会いたい。例え、哀しみの末路が待っているだけだとしても。戦火は広がり、悲劇は連なる。そこにまだ愛と呼べるものが残っていると、ひたすらに信じることしかできなかった。

本作は主に『ローグ・ワン』で知られるギャレス・エドワーズによる近未来を舞台にしたSF映画である。人間vsAIという設定は『ブレードランナー』的な世界観を彷彿とさせ、多くの部分において真新しい要素は少ない。が、この映画は同時にストレートな恋愛映画でもあった。切なさが徐々に忍び寄ってくるような、過去の美しさが押し寄せてきて、胸のどこかをギュッと締め付けてくるような。『ローグ・ワン』と同様に繊細な余韻を残す一本だった。

〜あらすじ〜

かつて人類とAIは共存し、平和な世の中が維持されていた。AIの暴走により、ロサンゼルスで核が爆発までは。その悲劇により多くの人が命を落とし、アメリカを含む西側諸国はAIを敵と見なして、AIを擁護するニューアジアとの戦争へと発展していた。
一方、そこはニューアジアのとある浜辺の家。ジョシュアは妊娠中の妻マヤと幸せに暮らしていたが、実は彼はアメリカ側のスパイであり、AIの創造者クリエイターを探していた。彼は創造者の追跡まであと一歩のところまできていたが、そこへアメリカ側の巨大衛生兵器ノマドの光線が撃ち込まれ、マヤはその爆発に巻き込まれて消えた。ジョシュアは爆風に晒され、愛する者たちの死を眼前に意識を失った。
それから5年。ジョシュアはマヤを失った哀しみを引きずりながら、淡々と任務をこなしていた。しかし、マヤが生きている証拠が浮上すると、彼はマヤに会うため、創造者を殲滅する部隊に案内者として帯同することを決意して・・。

〜見どころと感想〜

まず本作は、その世界観を構築するにあたりかなり早足で駆け抜けてしまっている。つまり、設定に拙い部分もあり、保管できていない点をそのままにして一気にクライマックスへと突入する。それでも今作を素晴らしいと思えたのは、SF映画としての世界観よりも、映画としての人間らしさに惹かれたからかもしれない。とても哀しく切なく、そして優しい物語だ。気付いた時には涙が頬を伝っていたのは、そのピアノの音色に導かれただけではなかった。

主演のジョン・デヴィッド・ワシントンはSF映画への出演が多く、他の作品と同様に元アメフト選手としての機動力は今作でも活かされている。共演にはギャレス・エドワーズとはゴジラでの縁もある渡辺謙。他にも『エターナルズ』で主演級を演じたジェンマ・チェン、経験豊かなベテラン、アリソン・ジャネイ、本業は歌手でフジロックへの出演経験もあるスタージル・シンプソンなど、キャストは手広く揃えてきている印象だ。

ロケ地には日本も選ばれており、渋谷や新宿でも撮影されている。ニューアジアの都心部はネオトーキョー的な雰囲気もあり、監督のオタク度も垣間見える世界観である。音楽にはハンス・ジマーが入り、低予算とは思えないほど、SF映画としての雰囲気はガッチリと構築された。とはいえ、この映画の中心にあるのは愛の話。愛する人を探す旅であり、また愛するべき人を守るための物語である。だからこそ、あのラストはとても好きだった。きっとハッピーエンドなのだと思いたかった。

〜あとがき〜

劇場公開された時に映画館で観ようかな?と思った本作ですが、仕事と育児にと忙しく、結局観ることは叶いませんでした。それでもこうして早い段階で配信してくれたのは有り難かったですね。

まとめると、とても好みの映画でした。切なくてエモーショナルな物語が好きなので、あのラストは自分の心の芯に思いっきり刺さってきました。レディオヘッドの曲の使いどころも良かったですね。何とも退廃的な雰囲気がトムヨークの歌声とこんなにも合うんだなぁと、新しい発見でもありましたね。
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