ひこくろ

リアリティのひこくろのレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
4.2
FBIが実際に捜査の際に録音したデータをテキスト起こしし、そのまま台詞として使ってみせた異色作。

現実の会話を使えばリアルだろうと思いがちだが、じつは現実の会話と映画とはそんなに相性が良くない。
日常で語られる言葉と、映画のなかの台詞とは、結構違っているものだからだ。
役者が相当上手く演じ、演出がやはり相当に頑張らないと、現実の会話は簡単に嘘くさくなってしまう。
それをこの映画では、見事に料理してみせていた。

まず、役者がものすごくいい。
メインの登場人物は主人公のリアリティと、FBI捜査官のギャリックとテイラーの三人。
この三人が自然かつ、迫力をもって演じていて、真に迫っている。
特にリアリティ役のシドニー・スウィーニーの不安を抱えながら捜査官と対峙する姿は、ちょっと息を呑むほどだった。

また、監督のティナ・サッターは現役で活躍する劇作家。
まるで舞台の演出を付けるかのような演出と、映画ならではの演出を織り交ぜ、これまた見事なリアルを作りあげている。

映画の前半はとにかく怖い。
唐突に現われたFBI捜査官が勝手に家探しをはじめ、理由も告げずにただ従うようにと言ってくるのだ。
これが命令口調だったり、高圧的だったら、理不尽ではあっても怖くはない。
なのに、二人のFBI捜査官は紳士的で、物腰も柔らか、言葉遣いも非常に丁寧なのだ。
きちんと人間として接してくれる。でも、彼女が犯人であることは疑っていない。
そして、その理由については何も語ろうとしない。

リアリティ(と言うか観客)にとってみれば、いきなりFBI捜査官が家に来て、自分を犯人として扱いはじめ、でも理由は言わないのだから、これは怖い。
丁寧な態度でジョークを交えてきたりもするから、余計にその怖さが増していく。
さらに、何を言っても聞いてはくれるものの、納得してくれないんだから余計に怖い。
何をやっても無駄という無力感はあまりにも絶望的だった。

そして中盤から、映画は一気に姿を変える。
ある事実が明らかになり、主人公が一転して、FBI捜査官の二人側に移るのだ。
ここからすごいなあ、と思ったのは、会話を再現しているのに、肝心の秘密の部分になると急に会話も字幕も映像さえも消えてしまうという演出をぷっこんで来たところ。
これによって、別の怖さが急激に立ち上がってくる。
それは最終的には、権力のために秘密を隠そうとする側と、明らかにしようとする側と、どっちが正義で悪なのか、という問いにまでたどり着く。

いやあ、すごかった。
役者、監督、そのほかの製作者たちが作り上げた圧倒的なリアルは、82分という長さをそれ以上に感じさせる。
とんでもない緊張感と現実であるということが生み出す説得力に、観終わってくたくたになると思う。
それでも、観てよかったとはっきりと言える。

何も知らないで観たけど、いい拾い物をしたと思った。
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