Dick

月のDickのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.3
❶相性:中。
★消化不良の面あり。

❷時代:2014年頃(主人公が1974年生れであることから逆算)。6月初旬に幕が開き、7月末に幕を閉じる。

❸舞台:特定されない。メインは深い森の奥にある重度障害者施設。ロケ地は和歌山市、有田市。

❹主な登場人物
①堂島洋子(宮沢りえ):東日本大震災を題材にした小説で文学賞を受賞した作家。1974年生れ。3年前、重度障害の子どもを3歳で亡くした痛手で書けなくなり、生活のため、重度障害者施設「三日月園」で働き始める。食事は夫と一緒だが、向き合わずに並んでいる。40歳を超えて新たな妊娠が判明するが、高年出産のリスクに加え、また障害児が生まれるのではないか?と不安に駆られている。
②堂島昌平(オダギリジョー):洋子の夫。売れない人形アニメーション作家。洋子のことを「師匠」と呼び、明るく振る舞って支えている。
③さとくん(磯村勇斗):重度障害者施設の職員。明るく正義感あふれる好青年。絵が得意で、入所者の為に紙芝居を作っている。
④坪内陽子(二階堂ふみ):重度障害者施設の職員。作家志望で、洋子を尊敬している。

❺考察
①冒頭、聖書の言葉が引用される。
「かつてあったことは、これからもあり、かつて起こったことは、これからも起こる」。
②次いで、下記が表示される:
「言葉を使えない一部の障害者は<声>を上げることが出来ない。ゆえに障害者施設では、深刻な<問題>が隠蔽されるケースがある」。
③上記2つが、本作の重要なキーになっている。
④洋子が働くことになった重度障害者施設は、町から離れた深い森の奥にあった。
★最初はあり得ないと思ったが、それは不都合な真実を遮断するための設定だと気づいて納得。
★何が行われているか、外から分からない施設だから、虐待が起きる。言葉を持たない入所者は、虐待されても告発出来ない。かくして、虐待はエスカレートしていく。
⑤洋子は、初日に、光の届かない部屋のベッドに10年以上寝た切りで、話すことも見ることも出来ない、きーちゃんと呼ばれる入所者と出会う。洋子は、きーちゃんの生年月日が自分と同じだったことで親しみを感じる。
⑥入所者の大半は、会話が出来ず、職員から暴行を受けたり、閉じ込められたりしていた。そんな様子を目の当たりにした洋子は、上司に訴えるが聞き入れられず、無力感を募らせる。
⑥そんな理不尽に連日連夜接しているさとくんの精神は、徐々に不安定になっていく。
★生産性のない人は排除される今の社会が、さとくんのような人間を生み出す源になっていると思う。

❻まとめ
①主人公の洋子の葛藤は、よく理解出来た。
②一方、さとくんが、殺傷事件を引き超すに至った過程がイマイチ不明確。でも、それは多分誰にも分からないのだろう。だからこの種の事件は今後も繰り返し起きるのだろう。
★昨年公開された『ニトラム NITRAM(2021濠)』は、1996年、オーストラリアで起きた無差別銃乱射事件の犯人である28歳の知的障害のある青年にフォーカスを当てたものだが、本作と同様、決定的な動機は不明のままだった。
③他に、本作中には意味がありそうな事象が幾つも登場するが、それ等は何を表しているのか?、分からなかった。
ⓐ森のカラスや蛇?
ⓑ昌平が作ったストップモーション・アニメーションの海賊がのっぺらぼう?
ⓒさとくんが作った紙芝居が「花咲かじいさん」?
ⓓさとくんのGFが聴覚障害者?
ⓔ部屋の鏡?
ⓕさとくんが、きーちゃんの部屋に飾った、紙芝居の絵を切り抜いた三日月?
ⓖそして、ラストの「昼間の三日月」?
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