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ナポレオンのナーオーのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
5.0
映像派リドリー・スコットの真の力を見せつけてくれる今年ベスト映画!

まず冒頭の時点でリドリー・スコットの本気が伝わってきました。

1793年、フランス革命真っ最中。
押し寄せる群衆に怯えるマリー・アントワネットと二人の子供。その中には後に地獄のような虐待生活の末にわずか10歳で亡くなったルイ17世の姿も。そして群衆から罵倒され、残飯を投げつけられながらギロチン台へと連れていかれるマリー・アントワネット。乱暴に髪の毛を掴まれて首をギロチン台に固定。そしてギロチンの刃が落下。切断されたマリー・アントワットの首を掲げる王党派。それを見て歓声を上げ、熱狂する市民たち。

そこに陽気な音楽と共に『Napoleon』とタイトル。このオープニングの時点でリドリー・スコットと『プロメテウス』以降ずっと組んできた撮影監督ダリウス・ウォルスキーの本気度がこれまでの作品以上に伝わってくる。観ていて変な声が出そうになったほど素晴らしかったです。

そこからナポレオンと妻ジョゼフィーヌの視点を通して、"トゥーロンの戦い"から"ワーテルローの戦い"、そしてナポレオンの最期まで、28年にも及ぶフランス史が猛スピードで描かれていきますが、158分という尺なので全体的に超駆け足。歴史が好きな人は「え?ここも短縮?え⁈ ここも??」と不満に感じるかも知れませんが、本作はフランスの"英雄的"なナポレオンの偉大さやその栄光など描いた作品ではない。そもそも今のリドリー・スコットがストレートは英雄譚を作るわけがない。

今となっては神格化されたナポレオン像を完膚なきまでにぶち壊し、戦術の天才でも実際は妻への愛に異常なほど執着する、嫉妬深くてコンプレックスと自惚れにまみれた男として描かれています。そして歴史上では"悪妻"と扱われることが多い、妻のジョゼフィーヌの見直し。

二人のロマンス場面が退屈という声も多いようですが、その場面が大半を占めているからこそ当時のフランスが女性にとってどれくらい生きづらい世界だったのかを嫌というほど思い知らされる。男性優位・家父長制が前提。子供を産めないなら用済み同然と切り捨てられるジョゼフィーヌ。

本作はジョゼフィーヌを単純な"悪妻"とか"弱い女性"して扱うのではなく、当時の男社会を生き抜く強い女性として描いており、『エイリアン』や『テルマ&ルイーズ』、『ゲティ家の身代金』、『最後の決闘裁判』、『ハウス・オブ・グッチ』など強い意志を持った女性を何度も描いてきたリドリー・スコットならではだと思います。

彼女に文字通り、翻弄され続けるナポレオン。二人のやり取りはダークコメディ的でもあるので、僕としては二人のロマンスシーンをもっと観たかったところ。

ナポレオの偉大さなどこれっぽっちも描いていないですが、ジャック・ニコルソンがナポレオン、オードリー・ヘプバーンがジョセフィーヌを演じる予定だったけど実現することはなく、幻に終わってしまったスタンリー・キューブリックの『ナポレオン』も恐らくはこういうテイストになっていたと思う。

そして圧巻の戦闘シーン。
8000人のエキストラを動員、11台のカメラで同時撮影。『影武者』や『ブレイブハート』、『プライベート・ライアン』、『ハクソー・リッジ』などの戦闘シーンに匹敵、なんならそれらを超えたと言っても過言ではない、大袈裟抜きにリドリー・スコット作品の中でも屈指の名場面になったと思います。視覚効果に依存せず、画面の隅々まで死に物狂いに戦う無数の兵士で埋め尽くされた凄まじい画。これは映画館で観ないと意味がない。家のテレビではこの迫力は味わえない。スマホで観るなんて論外。

158分でナポレオンの人生を駆け足気味で描いた故に歪な作風とはいえ、これほど大規模の歴史超大作を作れる監督は今のリドリー・スコットくらい。後にApple TVで配信されると言われている4時間半のディレクターズ・カット版や来年2024年に公開を控えている『グラディエーター2』も期待しています。

フランスが舞台なのに英語を話すナポレオンや細かな歴史改変など批判も多い作品ですが、映画が面白くなるように脚色するのはどの映画でも行われていることなので本作だけが批判されるのはおかしい。

"歴史家"たちには不評のようですが、リドリー・スコットの言葉を借りるなら、

"お前はその場にいたのか?そうじゃないなら黙ってろ"

です 笑
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