あなぐらむ

剣のあなぐらむのレビュー・感想・評価

(1964年製作の映画)
4.4
雷蔵が要望したという三島由紀夫原作の現代劇。
大学の剣道部主将である雷蔵の、生きる時代を間違えたかの様な高潔過ぎるストイシズムが、戦後の繁栄と個人主義の前で敗北していく姿が抑制されたタッチで描かれていく。戦後世代を代弁する若者には、意図的に川津祐介が配されている。
雷蔵扮する国分次郎が願う、「ただ、強くある事」信奉は紛れもなく武家社会から帝国軍人までがその旨とする精神性であり、それが大学の体育会という、現代にあってその精神性「だけ」が反射される場を物語の舞台にした事で際立ち、彼の危うさもまたきちんと描かれている(鳩を殺そうとする件)。
原作にはないヒロイン・藤由紀子を配して物語に波を立て、同時に艶を出しており映画に新しさ、64年当時の現代性を持たせている。
次郎を信奉する青年、壬生を演じる長谷川明男がまだ若く、裕次郎の若い頃の様な味わいを見せて新鮮。川津祐介のダークな色気も雷蔵と好対照。
三隅はこの主人公を決して美化せず、寧ろ突き放して描いているように見える。長谷川明男扮する壬生の方が語り部であり、監督の目線に近いと思わせる。三島原作と雷蔵の意識との微妙な差異が、本作にある均整をもたらしているのではないか。
これは三隅現代劇に通して感じられる視線の位置だと思う。