horahuki

Sissy(原題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

Sissy(原題)(2022年製作の映画)
4.0
インフルエンサーの裏側は…?

いじめられっ子で孤独なインフルエンサー女子の「認められたい・愛されたい」願望がトラウマと絡まり合って暴走する変化球スラッシャー。リアルで嫌なことあっても、SNSでのコメントが精神安定剤的な役割を果たす→依存していく…。依存の感じ他人事とは思えなくて辛い!🤣

ガンが自然派生活で完治した…的な嘘の発信してた実在のインフルエンサーを元にした作品。語弊ありありだけど公開中の『ピギー』と『シックオブマイセルフ』を足して2で割って、真っ当なホラーを振り掛けたみたいな感覚。『ピギー』とは違いスラッシャーしつつも、本作は殺人鬼に寄り添う。その狂い方が絶妙で、「自分はまともで優しい人」でありたくて葛藤しながら行動するのが面白かった。車で顔面を潰していくところを正面からじっくりゆっくり見せてくれるゴア方面のサービス精神もgood!

あとレインボーへの茶化しも好き。多様な人種やジェンダー、障がい者たちが主要メンツでスラッシャー的に処されていくんだけど、みんなレインボーのタオルみたいなのつけてる割に普通にイジメしてて笑う🤣その人の属性に関係ない人間としての悪意の公平さなんだろうけど、最近こういうカウンター的なの増えてきたよね。

主人公はセラピー動画を配信するフォロワー20万のインフルエンサー。でもカメラを切ると自宅は汚くて、煌びやかな印象は一切なく陰キャな生活。幼少時にBFFな約束をした親友がいたけれど、イケイケ女子にその子を取られてから今の今まで引きずって当時のホームビデオを見返す日々。その親友に15年ぶりくらいに偶然再会→なんと親友は婚約してた。婚約パーティに誘われた主人公が会場でぶっ壊れるって感じ。


以下ネタバレなのでスルー推奨です!






イーロンマスク(笑)とかいうパックの宣伝配信中に引いていくカメラがその背後の存在もしくは主観映像を感じさせつつも、何事もなかったように客観視へとその場ごと埋没させる。その映像的違和感に嫌な感覚を植え付けられ、それは好意的なリプの合間のサブリミナルで結実する。この主観-客観の演出は何度か登場していて、主人公の状況提示をわかりやすくそれでいて映像が与える違和感が変調的で好き。

ペルソナを自覚した上でのズレが齎す居心地の悪さは、そのペルソナこそが自己であると意識的に誤認することで精神的安定を得る態度ゆえ。その信じたい自己像とは真逆の自己を突きつけられ、それに自覚が伴っているために全力で否定にかかる。内的起因で行われればそれは統合であるのだろうけれど、外的起因それも「キャンセル」として突きつけられれば、認めたくないが理解はしている真なる自己の否定へと繋がるわけで、防護壁であったペルソナを容易に突き抜けて白日の元に射抜かれてしまった真なる自己は、自己であることを否定するために反撃を行う。だから殺人は誰かに晒される直前までは行われないが、そのラインは後退していく。トラウマは当然あの事件なのだけど、それすらも外形的事象に過ぎなくて、それを齎した根源的な事柄を抑圧し続けたために一切の内面的成長がなく、ペルソナだけを肥大化させ外形的に「大人」を装う。だから一見真っ当な意見と態度のように見えつつも単に内面を曝け出せない臆病さゆえに「大人」の外形を俯瞰視して演じ続けているだけにすぎない。なんかもうグサグサきて辛い…😂

その外形を装うことにSNSが如何に多大な貢献をしているか…という分析をやりたかったんでしょう。同じくオーストラリア産で同時期の『トークトゥミー』もSNSの影響を描いていたけれど、カンガルーの反復等構造的にも近いのは流行りなのかな。『悪魔のいけにえ』を思わせる血による異界化、山奥のコテージというスラッシャーの定番的舞台設定、霧、『ハロウィン』と同タイミングで到着する警察等、殺人鬼に寄り添い続ける構成としての作品内面に対して、アンバランスなほど(露骨過ぎて浮くほど)に古き良きスラッシャーの外形を踏襲している。この辺りもおそらく意識的で主題とテレコにしているのでしょう。ザSNSって感じの終わり方も含めて好き。スコアは甘めで!
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