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Leda(原題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

Leda(原題)(2021年製作の映画)
3.9
誰がゼウスか?

ギリシャ神話『レダと白鳥』を元にしたセリフ無し&モノクロのアート系心理ホラー。過去と現在、夢(妄想)と現実を縦横無尽に行き来しつつ、「神」にレイプされた主人公の崩壊していく精神世界を絵画的な美しい映像で紡ぐ作品。かなり好き嫌い割れると思うけど、大好きなpsychoticwomenジャンルなので好みなやつだった!

ゼウスがスパルタ王妃と不倫するために白鳥に化けて…っていうのが『レダと白鳥』らしいのだけど、本作は明確な時代設定がなく、両親を亡くした主人公が1人で暮らす森の中の屋敷で精神が追い詰められていく様をひたすらに描写することに焦点を絞った作風のために、わかりやすい変身シーンとかレイプシーンは無し。ただ、白鳥によるレイプを暗喩するシーンがあってその表現がすんごく良かった。

裸で水面に浮かびながら見上げる森の木々と差し込む光の光景が水中との境界線と上下的な物質的空間性を喪失させ、そこに着水する白鳥が今まで見上げていた木々を引き継ぐ水草との比によって(物理的にではなく)存在として異様に大きく見える。水面に沈めていた首をゆっくりと水面上に持ち上げる白鳥の性行為的気持ち悪さが凄くてサイコーだった!白鳥に気持ち悪いエロを感じたの初めてだわ😂

身重の主人公が1人で暮らしているところに従姉妹が世話しにやってきてくれて2人で生活しているのが現在なのだけど、フラッシュバックされる映像から幼い頃に母親を結核で亡くし、少し前に父親が事故死し、両親の墓の前で泣き崩れるところに現れた男と恐らく結婚したのだろうところまでは描かれるものの、その後の経緯は曖昧なままに進んでいく。クライマックスである程度のことは明かされるのだけど、それによって自然と導き出される事柄とそれ以外の選択肢の両方を択のまま残すことで、本作の気持ち悪さが幾重にも上乗せされていく構成が好き。


以下ネタバレなのでスルーしてください🙏



浴槽でうずくまる姿に池の水紋がミニマムに波及し、緩やかな自殺へと向かう危うさを冒頭で植え付け、上昇する浴槽の水面がそのリミットとして心的な許容限界の決壊を暗示する。その姿勢がラストシーンにそのまま引き継がれるため、編集で繋がれた卵という決定打(プロローグとラストの差異)に至る心的描写が本編となる。

面白いのが森の中で白鳥を見つけてそれに向かって走っていった先に行き着くのは生前の父親だということ。父親が死んだ時に寄り添いながら意味深に自身のお腹をさすることも意味深。更には、食べる動作によりキツネと自己に相似関係を作り出すことで、父親による狐狩りという行為に複合的な意図を持たせているようにも思える。そしてそれは「狐狩り中に死んだ」ことにも複合的意図を追加することにも繋がる。風呂で夫を殺してるのだとすれば、馬に乗って手から血(?)を垂らしながら夜の森を歩いているシーンは夫以外の殺害を匂わせている可能性もある。夫から血は流れてなかったように見えるので、考えすぎだろうけど。

白鳥のペンダントは父親から母親へと渡したもので、それが(妄想であるとしても)口の中から出てきたということは父からの贈り物を母から奪い自身の中に取り込んでいたということであろうし、それら全てを考慮すると白鳥には父親のイメージも重なって見えてくる。

普通に考えれば白鳥と同一視された首が発見され浴槽で殺しただろうことが暗示される夫が白鳥なんだろうけれど、元の神話のゼウスが不倫してたという要素を想定しづらくなるし、それだけのキーパーソンにしては流石に夫の存在感が無さすぎるように思う。時系列的に考えれば父親であっても不倫ではないけど😂ペンダントを吐き出したのも父親との決別を意味しているようにも映るし、三面鏡を通じて母親とマッチカット的に主人公が繋がるのも意味深。水面を挟んだ反転であったり、思考のアンビバレントを強調していることも父親が白鳥であると考えたほうが、出産にいたる葛藤に精神が壊れていくこのへの説得力が乗っかるように思う。というかその方が気持ち悪くて個人的に好み!
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