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ラストエンペラーのsiのネタバレレビュー・内容・結末

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

3時間もの長尺で全く退屈しなかった。
初めから落ちぶれることが約束された皇帝。実は一度も皇帝足り得ていない皇帝。何たる切ない物語だろうか。

背中の映画であって、様々な登場人物の哀愁や希望が画面から滲み出ている。冒頭の市民と同等に連行される溥儀が、トイレで自害するに至るまでに只ならない予感が立ち込めていてスリリング。

苦手な回想を繰り返す構成だというのに全然説明臭くならなくて、ちゃんとした人が脚本を書けばこんなにも素晴らしい作品になるのだと襟を正すしかなかった。

小学生くらいの歳になっても溥儀は乳母の胸に吸いつく。乳離れ出来ていないことが分かるカットはこのシーンだけなのに、直後に宮中の女性たちが双眼鏡で覗き見ている様子が描かれ、皆の噂になっていることが分かる。鮮烈なカットの後に台詞に頼らずリアクションで淡々と状況を理解させる。これこそが本物の映画である。

皇帝の存在が中国全土では無用の長物になっていることを弟に知らされ、宮外を見ることで現実を目の当たりにする。不安に駆られた溥儀が宦官たちに悪態を付きながら乳母の元へと走り出すや、乳母は強制的に連れ去られてしまう。それを目撃した溥儀は必死で追いかけるが、路地を抜けてカットが変わると広場には誰もいない上、明るさも若干変わっている。あの距離であれば路地を抜けて宦官たちが見えないはずがない。宮外に出られない溥儀が、すでにいるはずのない乳母を求めて宮内を彷徨い続けたことが一瞬で分かるように時間を省略した訳である。余りにも切ないと言う他ない。時が経過して「乳母というより好きな女だった」という台詞もグッと来る。

妃を2人選んで、第一妃と初めて出会うシーンも面白い。歳上で口紅を派手に塗った妃と対面し、別のカットが挟まれた後、すでにキスマークだらけでリードされまくっているのが無茶苦茶笑える。側近に服を脱がされていくのを2人とも受け入れてしまうのにも笑った。

その後、妃2人と3人でベッドに入りシーツ越しに戯れ合うシーンも官能的でありながら何だか切なくなって来る。画面内で次の展開である火事も同時進行で起こらせて時間経過を省略させるのも素晴らしい。

宮廷を追われた後、溥儀は満州国で再び皇帝の地位に着くも日本人に上手いように使われる。一方、第2妃はパーティーで取り残されることで自我が芽生えていく。雨の降るある日、第2妃は家から飛び出すと側近に傘を差し出され一旦受け入れるも「要らないわ」と颯爽と去っていく。坂本龍一の素晴らしい劇伴も相まって本当にグッと来るシーンになっている。

やがて、日本の立場も危うくなって満州国も崩壊。甘粕の不安が女性関係に現れ、自殺に至るまでの描写も良い。手を握るだけなのに無茶苦茶切ない。

ロシアでの勾留を経て、中国に戻って一市民として宮廷を訪れる。観光地となった玉座の見張りをしている子供に出会い、昔隠した小瓶を取り出すと時空を超えてコオロギ(キリギリス)が出て来るラストも本当に素晴らしい。振り返ると消えるというベタな展開も溥儀の寄る辺なき儚い人生を象徴するようで切ない。見終わって思い返した時の方が泣ける、本当に良い映画であった。

家庭教師との関係も良かったし、何もかも無駄が無くて歴史的人物を描く伝記映画としてこれ以上はないと言える大大傑作である。映画館で観られて本当に良かったけど、出来ればフィルムで観たかったなあ。
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