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君たちはどう生きるかのsiのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

難解で好き放題やっているのかと期待していたが、拍子抜けするくらいにいつも通りの通過儀礼冒険活劇であった。

子供が心的負担を知らず知らずに乗り越えるというモチーフは「千と千尋の神隠し」と同じでトンネル的空間が冒険の入口であることも同じ。全く同じことを事前説明なくやって観客がついて来れるのかを試しているのが本作かもしれない。大きくなり過ぎた自らの評価をリセットしたかったんではなかろうか?

宮崎駿は本作を含め肉体と精神に対する重力、重圧に逆らうことを描き続け、ひたすらアニメーションとして誇張することのみに執着している。放たれる矢はどんな方向にも進み、落下する飛べない鳥は必死で足掻いて飛んでみせ、水や血といった液体は異常なまでに粒が大きく自由に飛び散る。夥しい数の鳥も元々入れないであろうぎゅうぎゅうの隙間から何とか飛びたつ。物語としても、主人公は大金持ちの息子で何不自由なく、父親が亡くなった母親の妹と再婚するという設定で安易な感情移入が付け入る隙を排除する。

だから物語の終盤では明らかにバランスの悪い積み木もギリギリで踏ん張る。ここに柱を入れたらバランスが取れるということすら否定し、積み木を積むことも主人公は拒否する訳である。逆らう、抗うことこそが選択なのだから。ぐらぐらに揺れることが分かっている積み木を何故人から言われてまで積む必要があるのか。眞人はただただ自ら選択するのみである。

しかし、こういった今まで延々描いて来たテーマをタイトルで出さざるを得なかった宮崎駿の胸中とは…。プロモーションしなかったのは、とにかくインタビューを受けたくなかったってことだろうな。いい加減これで察しろよ、ってことでしょう。次作があるとすれば、今度こそ自由に出来るんじゃないですかね?

時間軸設定には新海誠、ラストの大叔父部屋に庵野秀明の影響が見え隠れして、意外にライバル視してんのかなあっていうのが手塚治虫っぽくて頼もしい。何とかもう一作は作って欲しいが。
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