よう

ある男のようのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.5
ずっと観たくてようやく。
原作既読。原作小説も好きなだけに、どう映像化したのかも気になりつつの鑑賞。


評判どおりの傑作。


まず、原作の序文に出てくるマグリットの『複製禁止』の絵。
この物語を象徴する絵をいきなり出してきてのタイトル。
ここだけで「お、ナイス」と。

しかも、本編で何度も出てくるのが、人物の後ろ姿を追うショット。
この絵と同じように、画的にも意図的に後ろ姿を観る人に追わせてるのもスマート。

エンディングにもこの絵を出しての円環構造。うまい。


石川慶監督の盟友であるいつもの撮影監督とは違うせいか、アーティスティックな画というものはないけど、刑務所で面会へ向かう通路のショットはどこか異空間につながるかのような不気味さがあってナイス。

宇多丸さんの評で「言われてみばそうだ」ってなったけど、横幅が狭い画角。
より人物を覗き込みがちになるってことなのかな。

テーブルについた手形が消えるショットとか、電源オフのテレビ画面に映る自分の顔とか、実在がぼやけ薄れるという画を見せてくるのもナイス。


原作を読んでるからこそ、構成を含む脚色がうまいなと思えた。

原作だと主人公・弁護士の城戸視点で話が始まるのだけど、映画では安藤サクラ演じる里枝から。
〈ある男〉側のほうを先に見せて感情移入させるのは納得。

原作のどこを削ってどこを見せるかの選択も的確だったかと。

ちょっとした台詞やり取りもよかった。
「どのくらいかかりますか?」「そっち(費用)じゃなくて時間」のやり取りって実際よくあるけど、これって人のちょっとした先入観の現れのようにも思える。

ラストシーン、あの終わり方もうまい。


城戸がこの調査にのめり込む、違う人生に興味が引かれるという感覚。
これって、小説なり映画なりのフィクションの人物に興味を持つ我々においては普遍的なことだよなあと。

終盤のあの男の子には泣かされる。
他者に幸せを与えていたのは事実なんだよ。


キャスト陣もさすがと言うべきか。

柄本明さんの「腹立つ〜〜」って感じもすごかった。

序盤パートの安藤サクラさんはホント見事。
出てきた時からのあの泣き顔。
その後も、薄幸そうだけど色気もある感じもよかった。
出会ってから幸せな家族になるまでのパートは、そこだけでステキなショートフィルムを観てるかのよう。
大祐の兄が線香上げるところでの「違う」「そうです」「いや、違います」のやり取りの、ちょいコミカルで奇妙な感じもよかった。

妻夫木聡さんの、スマートで、ニコニコしながら怒りを堪えてる感じなんかも見事だった。


別人だったという謎を追っていくミステリー性と、排他主義などの今らしく日本らしくもある社会問題も織り込みつつの物語。
かなり面白い一本。
よう

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