ゴダール作品はなんとなく難解というイメージがあり、この映画も興味半分不安半分で見に行きましたが、これはシンプルなストーリーで全然とっつきやすい映画でした。助かった…。
驚いたのは、とにかく全体的に画がおしゃれ…というかカットがおしゃれです。ホームビデオのような他愛もない会話ややりとりに、フィルムを細切れに切ってコラージュしたかのような不規則なカット割のリズムが楽しい。ジャンプカットと呼ぶそうですね。軽快で、どこか不安定なこの映画のストーリーを表しているようでした。
ストーリーは、刹那主義な車泥棒ミシェルが、流れで警官を撃ち殺してしまったことによる、数日間の逃亡劇。とはいっても悲壮感とか悩む様子とかあまりないんですよね。大声で歌いながら盗難車を走らせ、女の家に転がり込み、盗んで盗んでまた盗む。わざわざ車を止めて通行人のスカートめくり。びっくりするほど幼いです。しかし、無邪気や大胆というよりは、どこか人生を捨てているような危うさがあり、最低野郎ながら不思議な魅力のある主人公でした。
そんな主人公がやはり不思議と夢中になってしまうアメリカ人留学生のパトリシア。彼女の終盤での選択、どうでしょうね。どう思いますか?考察サイトを見ると、自分の将来を思ったとか、男の愛を試したとか、いろいろ書いてありますが、私は、自分の心を試したんだと思いましたよ。きっと見た人それぞれに感じるところがある心の動きだと思います。
ラスト、長い路地で、主人公の背中を追いかけるカメラ。この手のシーンは『殺人者たち』のリー・マーヴィンがこの世で一番かっこいいぜ、と思っていたんですが、それに並ぶくらいのお見事さでした。
レビューを温めていて、見てから少し時間が経ってしまったのですが、思い出せば出すほどどんどん魅力的に感じる、不思議な映画です。何度も見たくなる映画ではないでしょうか。