マンガに隠されていた、君が残した秘密。

榊原有佑、武桜子、野田麗未監督、seta原作、山下幸輝主演によるドラマ。
スランプに陥ったマンガ家・堀マモルが三人の幽霊と出会い、過去と向き合い始める姿を描く。
主人公となるマモルを山下、マモルの幼馴染・佐倉春を桃果、三人の幽霊を宇陽大輝、斎藤汰鷹、竹原千代、マモルの担当編集者を岡部たかし、春の母を坂井真紀が演じているほか、三浦貴大、占部房子、竹中直人等が登場。
物語は、スランプとなり漫画が描けなくなったマモルのもとに夜な夜な三人の幽霊が登場、それぞれのエピソードが順番に展開していくのだが、ここがなかなかファンタジー色が強く、その手の作風が苦手な私としては、退屈に感じてしまったのが正直なところ。
子役の演技も、お世辞にも手放しで褒められるものではなかったのだが、チョイ役の竹中、教師役の三浦、母親役の坂井といったベテラン陣がしっかり脇を引き締めていたのは流石の一言。
そうこうしているうちに、竹原演じる高校生の物語が始まったあたりから、本作品の全貌が見え隠れすることとなり、それまでの冗長とも言える内容が全て活きてくるという脚本自体は、なかなか上手く仕上げられていたところで、藤井道人監督『青の帰り道』や『デイアンドナイト』、最近では松本優作監督『Winny』や本作品にも出演している桃果が登場している石橋義正監督『唄う六人の女』等、派手さはないが良質な作品でクレジットされている伊藤主税がプロデューサーとなっているのも要因の一つか。
とりわけ、主演の山下については、昨年公開された中島央監督『TOKYO , I LOVE YOU』の出来が目を覆いたくなるものであったのに対し、本作品では、過去と向き合う主人公を好演していたことから、そのポテンシャルを見直した次第。
終盤の展開は、邦画お得意のお涙頂戴ものに、いつ転じてもおかしくないところを、きちんと踏み止まっていたのも好印象であり、前述のように、脚本そのものは良かったため、もう少し見せ方やテンポを工夫すると、かなり良作になったであろうとともに、エンドロールで響き渡る槇原敬之の声が見事に作品とマッチしており、観終わった後、間違いなくおにぎりが食べたくなる一作。

上手いとか下手とか、誰かに言われるために描いてないし。

思ってたより良かった。

過去の後悔や喪失と向き合い停滞してた夢が少しずつ前を向き再び動き出すっていう話でありきたりといえばありきたりな話なんやけども個人的にこういう作品が久しぶりやったから涙しちゃった。
そして何より堀マモルが愛おしい奴で応援したくなるキャラクターしてるのよ。

少し物足りへん感じもあるしテンプレ感も拭えへんけども普通に感動できる映画でした。

　タイトルが『マンガ家、堀マモル』だから、正に自分の硬い檻のようになった堀を頑なに守る男が徐々に柔和する物語だと思ったらまさにBINGOだった。漫画家の堀マモル（山下幸輝）は新人賞受賞以降、描きたいものがなくなりスランプに陥っていた。そんな彼の前に幽霊の海（宇陽大輝）、樹（斎藤汰鷹）、愛（竹原千代）が現れて「漫画を描かせてあげる」と言い、それぞれの思いを切々と語り始める。冒頭ではわかりにくいのだが、堀マモルの部屋はいつも成仏されない霊を抱えている。電気が支払えずに消えた屋内で主人公がそっと蠟燭の火をつけると、彼らが浮かび上がるという寸法らしい。編集者の林（岡部たかし）に毎回、説教をされる主人公だが、彼らの話を3編の漫画に描いていくうちに、マモルは大切な存在だった春（桃果）との別れや果たせなかった約束など、心の奥底にしまい込んでいた過去と向き合い始める。

　時に漫画家は自身の内面が滲み出るような作品が書けなければ大成しないなどと言われるが、堀マモルもまた、新人賞を取った数年前の自身のキャリアからまったく成長していない。そこには自身が作画を担当するものの、直接的な物語の源泉は春に任せていた。そこに尽きる。新人賞を取った物語上の深みの全ては春が握っていたのだ。ありきたりなボーイ・ミーツ・ガールな物語は、天才的な作画能力には長けているものの、自身が語るべき物語をまだ持ち合わせていない為、どうしたって深みは出ない。翻って春の物語の裏には、彼女が病弱で、いつ亡くなるともわからない状況の中をギリギリに生きている彼女の生き様を絞り出した珠玉の作品とも言えるだろう。同じとき、別の空間にいる者同士がある時、時空を超えて巡り合う様なある種のベタな演出もあるが、堀マモルという名前が体現する「陰キャ&引きこもり」の主人公をどう安全圏から引っ張り出すかが今作のカギである。こういう映画は得てして同世代だけが登場し、閉鎖的な環境の中で互いのキズを舐め合うが、春の母親に坂井真紀をキャスティングした判断は圧倒的に正しい。主人公に微かな希望を与えた三浦貴大や主人公をただひたすらに肯定した占部房子もそうだが、端役の一人一人に目を凝らせば見逃せるはずがない逸品である。