クシーくん

けんかえれじいのクシーくんのレビュー・感想・評価

けんかえれじい(1966年製作の映画)
3.8
戦前の硬派なバンカラ学生を描いた作品だと思っていたが、そうでもなかった。
硬派を気取りたいんだけど、そこそこ軟派で乙女に恋する岡山人キロクちゃんの青春物語。キロクちゃんを演じるのは22歳の高橋英樹。若い!凛々しい!でも高橋英樹。

もう主題歌からしてバンカラというか脳筋かぞえ歌で、これだけでも是非一聴の価値あり。「〽一つ喧嘩はガンのつけ~、二つ喧嘩は肝っ玉~三つ喧嘩は腕の冴え~…」アホだなあ。こういうの大好き。前半の岡山編も後半の福島転校編もとにかく主人公のキロクちゃんが喧嘩に継ぐ喧嘩に明け暮れる話だが、その土地土地の方言が魅力的。英樹さん千葉県出身の割には岡山弁頑張ってる。

キロクちゃんがケンカの師匠スッポン(川津祐介)から教わる間抜けな喧嘩修行やスッポンの豆鉄砲攻撃など笑いどころも盛り沢山。終盤の展開とえれじい(悲歌)というタイトルから下手すれば深刻な映画と思われかねないが、これは青春の余りあるエネルギーを明後日の方向に費やすアホ少年たちの挙動を笑って楽しむ映画だ。主人公と年の近い若者は殆ど例外なくバンカラを自認するボンクラばかり。キロクちゃんを取り込もうとする先輩たちも当然アホの集団で、OSMS団なる非モテ集団で群れて硬派を気取る。キロクちゃんが女の子と手を繋いでるだけで喧嘩を吹っ掛けるのは非モテの僻み感満載。

アクション映画を数多く撮っている清順作品なだけに、喧嘩の描写もすさまじい。相手を肥溜めの中にぶっ飛ばす、まるで「用心棒」のパロディのようなOSMS団VSスッポン軍団の対決、とりわけ福島に転校したキロクちゃんが昭和白虎隊を名乗る不良集団との乱闘を繰り広げるシーンは容赦ない暴力、迫力溢れたガチ喧嘩で楽しい。

桜舞い散る中、何とか意中の道子さん(浅野順子)の手を握ろうとするシーンの美しさよ。鈴木清順らしからぬ絵ではあるが、これぞ青春一本道。道子さんがまた良い女なんだよなあ。大橋巨泉はとんでもないぞ。

特に後半、話があちこちに飛ぶので良くも悪くもこの頃から清順節を感じる。
脚本が地味という理由で原作には出ない北一輝を登場させ、ラストシーンに226事件を当てこんだようだが、寧ろ蛇足感が否めない。そもそも続編を作る予定だったようだが、今となっては望むべくもない。
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