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ファーゴのshxtpieのレビュー・感想・評価

ファーゴ(1996年製作の映画)
4.0
まぬけなジェリー役のウィリアム・H・メイシーが「脚本に実話だって書いてあるけど……」とコーエン兄弟に言うと、彼らは「ああ、それは嘘だよ」とこたえたそうだ。メイシーが「観客をだますことになるじゃないか」と抗議すると、コーエン兄弟は「だって映画ってフィクションだからね」と言った。ははは。じつにコーエン兄弟らしい逸話だ。

『ファーゴ』の制作ドキュメンタリーで明かされているコーエン兄弟らしいおもしろい逸話のもうひとつは、脚本の厳密さだ。ゲア役のピーター・ストーメアが脚本上のミスだと思って“pancakes house”(ここはかなりおもしろいシーンだ)を単数形の“pancake house”と直して演じたら、コーエン兄弟がただちにカットしたという。セリフの文法上の誤りや役者の言い澱みもすべてはコーエン兄弟がコントロールしているのだ。

『ファーゴ』に登場するマクガフィンの数々はこのうえなくマクガフィンらしいもので、ほとんどなんの意味もない。たとえば、事件の元凶となるジェリーがなぜカネを必要としているのかも、結局、明かされることはない。あるいは警官のマージ(フランシス・マクドーマンド)が夫のためにミミズを掘ってきて紙袋に入れて渡したのも、まったく意味がわからない(笑)。マージが殺人現場を一目見てさくっとすべてを推理したのもしかり。そのほとんどがブラックでドライな笑いを惹起しつつむりやりプロットを駆動させている。

本作における最大のマクガフィンのひとつに、変な顔と揶揄されつつづけるカール(スティーヴ・ブシェミ)が奪ってきたカネを雪のなかに埋めるシーンがあるが、これもまたなんの意味もなさない(だってカールはその後……)。『ファーゴ』を観た日本の女の子が実話だと信じ込み、東京からわざわざノース・ダコタへ行ってカネを探したが見つからず、挙句に自殺してしまった、という申し訳ないが笑っちゃいそうなエピソードも含めて、本作のすごみを体現している(このエピソードはのちに菊地凛子主演で映画化もされるほど有名)。
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