せーじ

ミッドナイト・ランのせーじのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・ラン(1988年製作の映画)
4.2
230本目は、フォロワーさん達の評価も高い、この作品を。

ロサンゼルス。保釈中に逃亡した被告人を公判までに捕まえて引き渡すことで生計を立てていたジャックは、保釈金ローン会社の男からとある依頼を持ち掛けられる。それは、自分とも因縁のあるシカゴの麻薬王であるマフィアの金を持ち逃げして逃げた会計士「デューク」を五日以内に捕まえて警察に引き渡すというものだった。ジャックはニューヨークに飛び、わずか一日でデュークを拘束することができたのだが―というお話。

基本的には変則的なバディムービーであり、アメリカの端から端までを時間制限付きで踏破していくロードムービーなのだが、ほとんど血が流れないどころか、マフィアやFBIに追われたり、銃撃戦の中で逃げ回ったり、かなり流れが激しい川に飛び込んだりしているのに、どこか牧歌的なノリなのが面白い。
というのも、マフィアやFBIの連中がどちらも信じられないくらいおバカで、しょうもないヘマをしながら自滅していくので、深刻でハードな展開になりにくいのだ。カーチェイスも、ある場面でマフィアが雇った殺し屋がヘリで主人公達の車を撃つくだりや、道なき道を主人公たちがかっぱらった車で逃げていく後ろを、西部警察よろしく大量のパトカーがくんずほぐれつしながら追っていく図は、単なるおかしみを超えた不思議な魅力が備わっている様な気がした。なんなんだこの図はっていう。
また、デュークこと会計士の彼も食わせ者で、道々主人公とじゃれ合いながら騙し合いをしていくので観ていて全く飽きないし、二人の性格上の設定といい、次から次へと色んなことが起こるプロットの展開といい、しっかりと感情移入できるように出来ているというのも上手い。
加えてこの作品、笑える描写だけではなく、主人公の元家族を通して「主人公がなぜこのような稼業をすることになったのか」という理由を深いところまで掘り下げ、それを主人公の行動原理やデュークとの友情の形成に託す物語構造にしているというのもいい。腕時計の件や元妻や実の娘と再会するくだりはベタな話だと言われればそうなのだけれども、ウェットな部分を奇をてらわずにストレートに描いているので、主人公への感情移入に大きくプラスに働いていると感じる。
そして、ラストシーンの切なさ。「来世で会おう」という言葉で、それまであれほど笑ったのにこれほど真に迫る切なさを最後の最後で感じさせるとは。ただ単に笑える要素が投げ出されているだけではなく、要所要所で緒を締めるかのようにグッとくる要素をきちんと用意しているところが偉い。いろんなところで笑った割に、最後の切ない演出があるおかげで、鑑賞後はビターな余韻が残る作品だったと思います。

マフィア・警察・賞金稼ぎと、いわゆる"コワい人たち"が沢山出てくる作品ですが、ドクロメーターもほぼ0ですし、誰でも安心して観ることができるアクションコメディなのではないかなと思います。デニーロ氏をはじめとするおじ様達のキャッキャウフフを楽しみたい人はぜひ。
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