せーじ

ほしのこえのせーじのレビュー・感想・評価

ほしのこえ(2002年製作の映画)
3.7
340本目。
この年末は、というより今年は、あまり映画を観ることが出来なかったので、いきなり色々見るのではなく、リハビリ(?)も兼ねて、しばらくはアニメーション映画で観てこなかったものや観たいものをガッツリ観ようと思ってます。第一回目はこちら。

実はこの作品は、未見だったのですよね。
『すずめの戸締り』を観るにあたって、これまでちゃんと向き合ってこなかった『秒速5センチメートル』などともいい加減向き合おうと思い、それならば…ということで一緒に借りてきたのが本作でした。
久しぶりにDVDプレイヤーを開けて鑑賞。





…うわ、あまじょっぺぇ!!!ってなりました。
十数年来好きだったバンドのインディーズでのデビューアルバムを久しぶりに聴いたかのような、荒削りでこっぱずかしい初期衝動がビンビンで、笑うしかなかったです。
今の自分としては嫌いではないですが…という感じですね。

■新海誠監督の出発点とは
身も蓋もない言い方ですけど、観ていてすんごく「エヴァっぽい」と思いました。
具体的に言うと、演出の付け方や画面構成のとりかたが、ほぼほぼ「エヴァマター」で構築されているように感じられたのです。写実的な日常風景を印象的なアングルで映し出そうとするという、あのやりかたです。そこに光や自然風景の変化を乗せることで、新海映画となっていくんだなぁというのがひしひしと伝わってきたので、彼の原点はエヴァだったのか…と納得してしまいました。ただ、『トップをねらえ!』などでも設定として取り上げられている「ウラシマ効果」なども題材として組み込んでいるので、正確には「庵野作品ぽい」と言った方が正しいのかもしれません。若い女の子が地球外生命体と戦うために地球を旅立つ…なんてあたりもそれっぽいですよね。(ほかにもガンダムとかマクロスとか、そのあたりのオマージュが込められているようにも感じます)。
そして、言うまでもないことですけれども「親しい男女が離れ離れになるところから始まる話」というのは、これまでも繰り返し様々な形で語られてきたモチーフですよね。新海作品に限らず、古くは『木綿のハンカチーフ』なども含めて、様々な形で擦られ続けてきたネタでしょう。最近では『葬送のフリーレン』あたりも、そうだと言えるのかもしれません。この「離れ離れになるからこそ、その時まで確かにあった"二人の関係"が貴重でいとおしく感じる」というせつなロジックを、本作では全力で前面に繰り出してきます。それがあまりに直球ストレートで剛速球なので、ダサいを通り越して一周回ってむしろいいなと思えるピュアネスが感じられたような気がします。…とはいえ今となっては、こういう作品を観て何も考えずにそういった要素に耽溺してしまうっていうのもちょっとどうなのかなとは思いますけどね。(昔のオマエだろうがよ)

■待つ側の停滞
ただ、この話を観ていて思うんですけど、置いていかれた「彼」が、そこまで熱心に「彼女」を追おうとする話にはならないんですよね。いちおう、「彼」が「彼女」を追おうとするそれっぽい努力をしてきた形跡はあるのですが、なんだか全体的に起きた物事に対して「彼」は受け身で、そこに葛藤や苦労があまり強く感じられないところがちょっとな…となってしまいます。
そもそも、こういう話を描くのなら「二人の時間」を最っ高に素晴らしく描くべきだし、それが野暮だというのなら「それぞれが最っ高に素晴らしい時間を過ごしてきたのだ」っていう説得力が二人に乗っかっていないとダメだと思うんですけど、あまりそこが強くないんですよね。まぁ、あまり強くないところから始めたかったというのもあるでしょうし、尺の関係上仕方がなかったのかもしれないですが。
それと、時間経過でテクノロジーが進化する…とかも無いんですよね。二人が持っているケータイはストレートのモノクロ液晶がついている機種だったのですが、公開年の時点では折りたたみ機が全盛で、もうそれらはすでに少し古いデザインの端末だという位置づけだったはずなんです。それはおそらく作り手が「敢えて」そうしたのだと思いますが、それなら劇中で数年以上時間が経っているのに「彼」が持っている端末が変わらないままだというのはおかしいですよね。…まぁ、時間経過とともにテクノロジーを進化させちゃうと、「メールが届くのにどれくらい時間がかかるのか」というロジックが破綻してしまうので、仕方がないのかもしれないですけど、そこを話のフックに組み込んでもよかったのではないかなと思うんです。
それとさらに細かい話で恐縮ですが、「彼女」がコックピット内で制服のまま…というのが気になりすぎて仕方がなかったですw「スパロボじゃないんだし、プラグスーツ的な何かに着替えさせるとかさ…もうちょっと何かあんだろw」と思いました。「旅立つときに『私これ着ていくんだ』ってバトルスーツを彼に見せるとかさ…やれよ新海それくらいはやれんだろ!」とも思いましたね。そういう「ボクを置いてあの子は変容してしまうかもしれない」というある種のエロティックさみたいなものに通ずる部分をきちんと描かないから、うっすく感じるんだろうな~と思ってしまいましたね。
冗談めかして書いていますが、冷静に物語を反芻してみると、「現実ではこの問題がなにも解決していないのに、勝手に彼が彼女に気持ちを乗せて終わりにしちゃった」ようにも見えてしまって、なんだかなぁと思ってしまった次第です。気持ち悪く感じるのはそのあたりが原因なのかな…と思います。
でもまぁ、これをほぼ一人で作っちゃったというのは、凄まじいなとも思いますけどね。

※※

ということで、わずか25分ほどですが、色々と心をかき回された作品だったのではないかなと思います。新海ワールドに飛び込む「準備運動」としてはピッタリな作品だったのかなと思います。
興味のある方はぜひぜひ。
ということで、次回もお楽しみに。
せーじ

せーじ