せーじ

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのせーじのレビュー・感想・評価

4.4
343本目。
この作品も観よう観ようと思って観れなかったシリーズ作品。何やらこの作品の続編であり三部作のクライマックスである『ビヨンド』の制作に暗雲が漂っているようですが、それらも踏まえて、観てみることにします。




…なるほど、とんでもなかったですね。
様々な人々が語る通り、一作目を余裕で超えてくるような映像美で、何度か本気で「これ、アニメーション映画だよね?」と思ってしまいました。
映像表現として、余裕で最先端を天元突破している作品だと思います。

■拡張された世界で紡がれる普遍的な物語
とは言っても、三部作の二作目なので「この先どうなるんだオイィ!?」となるような物語の引っ張りはあっても、この映画そのものにこの映画と釣り合うような具体的な大きさのカタルシスがあるかというと…そこはどうなのかなぁとは思います。あと、その物語の内容も、よく言えば普遍的ですけど悪く言ってしまえば「どこかで観たような内容」だと思う人が居ても不思議ではない内容だと思うのです。
でもこのシリーズがすごいのは、「普遍的な物語」を狭い範囲に押し込めるような作り方ではなくて、どのような出自の物語でも普遍的に受け入れるような作り方をしようとしている所だと思うのですよね。「誰でもヒーローになれる」という懐の深い包容力と多様性があるからこそ「スパイダーマンの"バース"」はここまで拡張することができたのだと思うのです。
個人的に驚いたのが、数日前に観た『すずめの戸締まり』と、よく似ているなと思った部分があったところでした。「思春期の少年少女が保護者になりゆきで隠し事をしてしまう」というのもそうですし、「世界の破滅か自分の大切な存在の喪失かの二者択一を迫られる」というのもそうですよね。すずめちゃんとマイルス君、グウェンさんはたぶん話が合うと思いますし、なんならすずめちゃんだったらグウェンさんの"バンド"に参加したい!って言うかも。逆にマイルス君たちなら、たぶんすずめちゃんのことを手伝ってくれるでしょうね。
…そのようなことを夢想しても否定されないような「多様さ」だけではなく「懐の深さ」を自分はこのシリーズ二作でより一層強く感じました。もうそれは、この作品そのものの枠組みを超え、外に出始めていると言っていいと思います。

■「傷を舐めあうソサエティでいいのだろうか」問題
前作と本作の途中までで、スパイダーバースの「多様さ」と「懐の深さ」は余すところなく語られてきたと思います。しかし本作は、そこで考えるのを終わらせず、次の領域へと足を踏み込みました。それは「自己犠牲による喪失を救ってしまったら、スパイダーマンはスパイダーマン足りえるのかどうか。そしてそこをスパイダーマンは超えることが出来るのだろうか」ということでしょう。その部分を「運命=カノン」であると定義づけたというのはとてもウマいなと思いましたし、もしも安易にそういった物事を救ってしまったら、「スパイダーマンの"バース"」そのものが霧散してしまうかもしれない…というのも、物語としてとても筋が通っていると思います。
言うまでもなく「スパイダーマン」は、他のヒーローのように最初から力を持っていたわけではなく、限りなく一般人、それもどちらかというとマイノリティーに近い属性の人々が「偶然」力を手に入れたけれども…というお話ですよね。でも、言い方が悪いですけど「そういった人々が集まるコミュニティ」って「弱い人間たちが傷を舐めあっている場所なんじゃないのか」とも言われてしまうことだってあるわけです。だったら…!というようなことを、この物語は語ろうとしているのかもしれないな…と自分は観ていて思ったりもしました。
あとあの「真っ白いカオナシことスポットさん」は、「大いなる力には大いなる責任が伴う」という一作目のキャッチコピーで言うところの「責任」を具現化したような存在なのでしょうね。『すずめの戸締まり』で言うところの「ミミズ」と「ダイジン」に近い存在なのかもしれません。そんな奴らと、もう一人の"アイツ"、そして現実世界で起こってしまった「次回作公開への"壁"」も含めて、実に本作らしい展開が、内外合わせて進行しているなと感じます。果たしてマイルス君は「運命」を切り開いて"ビヨンド"することが出来るのか。この先も刮目して待っていこうと思います。

※※

ということで、年末最後に観るにふさわしい作品でした。
映像のことについてほとんど書いていませんが、言葉では表現し得ない、しにくい部分が目白押しであるというのはもちろん、色表現にまで感情などを的確に表そうと努力をしているというのが凄まじいレベルで結実しているのは、一目瞭然だと言っていい出来だと思います。
それと、自分は吹き替えで鑑賞しましたが、声をあてた方々の演技がすごくよかったなと思います。とくにグウェンさんを演じた悠木碧さんの演じ方は、ちょっと凄いなと思いました。キャラクターへの理解度がとてつもないところにまで及んでいると思いました。
この年末年始に、一作目と含めてぜひぜひ。

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今年も一年間ありがとうございました。
ほとんど観ていないに等しいので、ランキングとかはやりませんが、来年はもう少し観る本数を増やしますし、映画館に行く機会も増やすつもりです。ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
せーじ

せーじ