せーじ

ロード・オブ・ザ・リングのせーじのレビュー・感想・評価

ロード・オブ・ザ・リング(2001年製作の映画)
4.3
335本目。
観よう観ようと思っていて、ずっと観れなかった作品。
というよりも、あまりのボリュームに尻込みをしていた部分もあります。
どうにか観る時間をこじ開け、鑑賞。




…凄まじい映画でした。
圧倒的な迫力と、儚く繊細な美しさを感じさせる作品だと思います。

■明確なプランニングに基づく映像と世界観、そして登場人物たち。
この作品、まずはここが突出して素晴らしいのだと思います。本作を作るにあたりピーター・ジャクソン監督は、原作の挿絵を担当している画家二人を招聘し、美術コンセプトをデザインさせたのだそうです。それを基にして監督はこの映画を作るためにニュージーランドにスタジオを作り、美術コンセプトに合うロケ地を探していき、ほぼニュージーランド国内で撮影を行ったのだそうです。あんな壮大でバリエーション溢れる美麗な風景が全部ニュージーランドで撮られたなんて、ちょっと信じられないですよね。もちろん、キャストの選出や衣装などのビジュアルも完璧だと感じました。恥ずかしいことに自分は原作を読んでいないのですが、原作を読んでいない自分でも、写っている映像は架空の物語なのに登場人物それぞれの存在感や説得力が強く感じられたのです。やっていることそのものは「邦画のマンガ原作映画」と変わらないはずなのに、突き詰めるとここまで凄いものになるのか…と驚きました。もちろん、使えるバジェットの差や技術的な差もあるのでしょうけれども、「指輪物語という作品を最高な映画にするのだ」という真剣さと妥協の無さが強く感じられる出来にキチンとなっていると思ったのです。それはどうしてなのか…と考えるに、もともとのプランニングが明確であり、具体的な形でアウトプットする前の段階のプロセスが素晴らしかったからなのではないだろうかと思いました。やっぱり、大元の部分を妥協無くきちんと考えるのって大事ですよね。

■力の無い(ように見える)種族が世界を救おうと決める話
次いで惹かれたのは、物語の内容でした。ファンタジーでもなんでも、大抵の冒険物語というものは、異なる種類の力のぶつかり合いを描き、力がある者(もしくはその素質がある者や力を偶然手に入れてしまった者)が主人公としてその力をふるっていくように描かれていくものが多いものですが、この物語はそうではないのですよね。どちらかというと「力の無い者」が否応なく巻き込まれながらも、どうにかしてその「力」を極力放たずに捨てに行こうとする話であるのだと描かれているので、面白いなと強く思いました。
「指輪には力を持つ者ほど魅了されてしまう"魔力"があり、人間をはじめとしてそれに打ち勝てる者はほとんど居ないが、特別な力を持つわけでもない、か弱い存在であるはずのホビット族だけは、強靭な精神力をもってそれに耐えることが出来る(だから長期間指輪を保持することが出来た)」というこの物語の設定はとても興味深いなと感じます。友好的で庶民的な生活をし、ウサギのように穴に住居を作って住むというホビット族は、何を想われて原作者によってそういう形で産み出されたのでしょうね。とても気になります。そして、そのようなホビット族のひとりであるフロドが、時に理不尽さに巻き込まれながら苦しんだり、時に訪れる別れに悲しみながらも旅を続け、その果てにおずおずと「自分がいく」と決意をするのであるから、感情移入が出来るようになっているのだと思うのです。
そこに自分は強く惹かれました。

もちろんフロドを演じるイライシャ・ウッドの演技も素晴らしいと思います。特にすごいなと思ったのは彼の「まなざし」ですね。その表情だけで意志の強さと何を考えているのかが、画面を通して明確に伝わってくるので、すごいな…と思いながら観てしまいました。もちろん他のキャラを演じている俳優陣も凄いんですけど、彼の表情による演技はその更に一歩先をいっているように感じます。

■そのほか
ただ、後半急に「あれ?なんだかクオリティが下がった?」と思う様な追跡・逃避行シーンがあったりして訝しんだ部分もあったのですが、これはおそらく自分が、その場面と同じような撮り方をしている他のコンテンツを既に多く観ているからなのだと思います。この作品の撮り方や作り方を表面的に後追いしている人たち(劣化再生産ともいう)はおそらくとても多いと思うので。
実際には雪山のシーンや馬を使ったアクションなど、ハイコストで危険な撮影も多く、それでいてVFXと実在のシーンとの乖離による不自然さなどは殆ど感じられないので、映像としてはとてつもない出来になっていると思いました。
なお、物語の語り口はかなりハイコンテクストな上に明らかにテンポも速いので、映画を観ただけではわかりにくい部分も多い作品だなと感じました。特に、主人公であるフロドの精神的なタフさがもっと別の角度から窺い知れる描写がもっとあるといいなと思ったりもしました。その辺りは、原作をはじめとした様々な作品解説にあたるべきなのだろうと思います。

※※

ということで、遅くなりましたが今年最初のMarkがこの作品で良かったと思います。あと二作、フロドが何を観て何を想うのか。そしてその時、中つ国はどうなるのか。観ていこうと思います。
興味のある方はぜひぜひ。
せーじ

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