せーじ

ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔のせーじのレビュー・感想・評価

4.4
336本目。

手にすると災いをもたらすという「力の指輪」を捨てに旅を続けているホビット族の青年たちと、彼らを取り巻く様々な種族の物語の中編。
なかなか三時間もの大作を連続して観るような時間とココロの余裕を持つことが出来ず、感想を書くのが今日になってしまいました。
意を決して、鑑賞。




…いやぁ、改めて凄いなこの作品。と思ってしまいました。
エンターテインメントとして抜群の吸引力が備わっているのはもちろん、登場人物それぞれにきちんと感情移入をさせてくれる「力」があるように感じました。

■三手に分かれた群像冒険劇
序盤から前作の結末に引き続いて、ホビット族のフロド・サムの二人とピピン・メリーの二人、人間であるアラゴルン、エルフのレゴラス、ドワーフのギムリの三人の三組に分かれた冒険物語が群像劇的に描かれていきます。丁度物語の語り口としては週刊少年ジャンプのマンガ『ワンピース』に近いのかもしれないなと自分は感じました。"麦わらの一味"をいくつかのグループに分けて、それぞれの視点を切り替えながら話を進めていく、あのやり方です。このやり方はいろんな要素をさまざまな角度から余すところなく語ることが出来る反面、上手くやらないと退屈で冗長な話運びになってしまいかねない方法なのですが、各グループの視点の切り替え方がとても巧みなうえ、最終的な決着点へと話を持っていくプロセスも秀逸で、三時間の長丁場であるにも関わらず飽きずに最後まで観ることができたように思います。いちばんの成功ポイントは、アラゴルンたち三人の冒険を主軸に置いたところでしょうね。彼らの物語は特に後半のローハンの戦いあたりから撤退に撤退、ピンチにピンチの連続で、常に死と隣り合わせのヒリヒリとした展開がクライマックスの奥の方まで続いていくので、自分は観ていてまさに「手に汗を握って」しまったのですが、それだけでは終わらずに、ちょっとしたシーンで彼ら三人に感情移入をさせてくれるような細かなエピソードがさりげなく織り込まれていくので、とても見応えがありました。
一方、だからといって主人公達が疎かにされ過ぎるわけでもなく、「ゴラム」との出会いによるフロドとサムの関係の変化を要所できちんと丁寧に描いていたのではないかなと思います。そして個人的にいちばんアガったのは、ピピンとメリーが出逢った「かしのきおじさん」(fromにこにこぷん@おかあさんといっしょ)たちがブチキレるシーンでした。そこまで前作からずっとこの作品の根底にあった、物語全体の不穏さや恐ろしさというネガティブな要素を引っ張って引っ張って引っ張って引っ張って引っ張って引っ張って引っ張って引っ張ってようやく最後の最後にドーンとひっくり返すというカタルシスに、完全にやられてしまったのです。「サウロンざまぁww」な自業自得ともいえる展開がそこには待っていたので、最後の最後で心の底からスカッとしましたね。
そしてそれだけでなく、その直後にダークサイドに落ちてしまいそうになるフロドを…というシーンも感動的で素晴らしかったなと思います。

■信じられていない「人間」と、信じようとするフロドたち
本作のテーマは「信じること」なのかもしれないなと観ていて思いました。まず、そもそも我々人間がこの物語上では最も信用されていない存在であるという皮肉過ぎる設定に痺れてしまいます。実際そうだよなと思うようなことがこの世の中では無数に起きているので、なんも言えねぇ…となってしまいますよね。けれども、作者であるトールキン自身は人間というものをそういったシニカルな視点で見ていた反面、人間には信じるに足る要素も必ずあるはずだと信じていたのではないかなと思うのですよね。そういう要素をアラゴルンやフロド、サムなどに託して描いていたのではないかなと観ていて思いました。その為にはホビット族のような強靭な精神力が必要なのかもしれないですけれども、それ以上にまずは身近に居る人々や出逢った人々との関係を大切にするべきなのだ、とも描こうとしているのではないかなと思います。
そこで注目するべきなのは、エンディングで何やら悪だくみをしようとしていたゴラムですよね。作中で彼が最も人間らしい弱さや醜さ、そしてその裏にある善良な人間性をむき出しにしていて面白いよな…と思いました。つまりは彼が最も「信じる」というところから遠い存在なのだと描かれている訳です。この先物語は佳境に入っていくわけですけど、ゴラムがどう物語の中で動くのか、とても興味深いなと思います。

※※

という訳で、お腹いっぱい、満足度充分な作品でした。
例によって、ところどころ「おや?」と思う部分が無きにしも非ずではあったのですが(ガンダルフ、そこで物理なのかよとか、そんな無理矢理三角関係にしなくても…とか)エンターテインメントとして高い次元で成立している「名作」なのではないかなと思います。
お時間がある時に、じっくりとぜひぜひ。
せーじ

せーじ