晴れない空の降らない雨

陽気な中尉さんの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

陽気な中尉さん(1931年製作の映画)
3.0
 せっかくだからトーキー・デビュー作にしようかと思ったけど、借りられなかったので代わりに同じく未見のトーキー3作目を鑑賞。うーん、当時世間的にはいつもどおりの成功作という扱いでも、自分としてはやや外れクジだった。
 オペレッタというのはルビッチそのものの選択肢で、劇中歌の底抜けに馬鹿馬鹿しい歌詞は秀逸だけれども、人物が動かず話も進まないことによる鈍重さの罪が功を上回っているように思われる。『結婚哲学』以下サイレント期の傑作群にあったテンポの良さが、だいぶ損なわれている。
 しかしまだまだトーキー初期、セリフは全体的に少なく身振りのみのシーンが目立つ。また、特に後半にみられる、セリフを用いずに音楽と芝居だけで進行するシーンには、サイレントとトーキーの優れた融合をみることができる。ラストは完全に1920年代。
 フラウゼントラムなる架空の小王国の描写(侍従による初夜の支度!)や、結婚を反対された王女の脅し文句が「アメリカ人と結婚するわよ」だったり、笑いのセンスは本作でも生きている。
 個人的にグッときたのは、ことごとくフザケていた劇中歌の歌詞が、終盤のピアノ弾き語りがもたらす哀愁に反転する瞬間である。中尉の恋人だったヴァイオリン奏者が、王女に対し、下着についてピアノ弾き語りで講釈する。ウィーンの女が田舎のお姫様をカレ好みのレディに成長させようというわけだ。案の定の実にふざけた歌詞は、しかし彼女が中尉との別れを決意したことが理解できて、笑うに笑えない。