晴れない空の降らない雨

ウェンディ&ルーシーの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
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 映画の最初でウェンディとルーシーは右方向に歩いていくが、最後の貨物列車は左方向へ。その前に、野宿中のウェンディがホームレスと遭遇したあとで逃走するシーンでも、延々と左方向への移動を撮っていた。このシーンがあるため、ラストの左移動は観客にネガティブな印象を与えるものとなっている。ウェンディは元々の目的地であるアラスカへ行くにもかかわらず、それは「前進」として描かれていない。
 
 この映画では、生成AIの隆盛とも株価の史上最高値更新とも縁がなさそうな生活を送る人ばかりが出てくる。しかし、社会の下層を生きるとはいえ、定職の有無は人と人の間に決定的な線を引いている。彼らが連帯することはない。アメリカの「もうひとつの風景」。
 ところで森で暮らす若いホームレスの集団や、公共トイレの水で体を洗う、貨物列車に忍び込むなどは、近年だと『ライフ・イズ・ストレンジ2』でも見た。貨物列車への忍び込みは超古典的シチュエーションといえるだろうが、車も金もない非定住者が広大なアメリカを旅する数少ない手段として現役らしい。