にくそん

噂の二人のにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

噂の二人(1961年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

BS10 スターチャンネル主催の「オードリー・ヘプバーン映画祭」で鑑賞。スクリーンで観られて本当によかった(ので、感謝をこめて主催者名を明記しておく)。こんなに人間を描き切った映画とはもう、そうそう出会えないかもしれない。

学生時代からの親友同士で、郊外に寄宿学校を開いて運営していたカレン(オードリー)とマーサ(シャーリー・マクレーン)。ところが、カレンに厳しく叱られた問題児のメアリー(カレン・バーキン)は、学校に行きたくないあまり、自分の保護者である祖母に嘘をつく。いわく「先生たち二人は夜遅く部屋でおかしなことをするの」「奇妙な音を聞いたの」。同性愛に対する強い偏見があった時代、親たちは一斉に子どもたちを学校から引き揚げてしまい、カレン、マーサ、カレンの婚約者・ジョー(ジェームズ・ガーナー)は苦境に立たされる、というストーリー。

マーサがただ抱いていたカレンへの恋心が、嘘をきっかけに晒し上げられて指弾され、彼女自身も自分を強く責める流れがむごくて、胸が痛くなる。それでもそれらのシーンも含めて圧倒的に面白かった。キャスト全員どのシーンもとんでもない熱量で演じているし、展開や会話がとにかくスリリング。

撮り方もアングルから何から意図が明確でスタイリッシュだった。たとえば、車の中でメアリーが祖母に嘘を吹き込むシーンを車の外(前方)から撮ったのなんか印象に残る。無表情な運転手の向こうに後部座席の祖母と孫。孫がささやく内容に祖母が驚く声がフロントガラスごしなので濁る。

主役二人の容姿もいい。本作では教師役のオードリー、地味でクラシカルな装いなのに、美しさがいっそう際立つ。コートを羽織って散歩に出る、そんななにげないシーンでもため息が出そうに。シャーリー・マクレーンは長く活躍しているだけに、名前を聞くと最近の顔が思い浮かぶけど、若い頃はまたまるで違った美しさ。細すぎなくてちょっとマニッシュなムードで、この役がよく似合う。

カレンは容姿が秀でているだけでなく、悲しいぐらい聡明で、そこも含めて完璧に美しかった。メアリーの嘘をどれもこれもすぐ見抜くし(だから逆恨みされる)、噂を噂と流し切れずにいる恋人を「わたしに聞きたいことがあるはずよ」と追いつめる。メアリーたちの嘘が明白になって学校へ謝りに来た老婦人にも「良心を楽にしに来たのね」と言い放つ。何かを見過ごしたままにしておけない潔癖さがせつなくもある。

そんな彼女がマーサの告白を聞いた後に、その重みを感じながら、また周囲の目の冷たさも知りながら、それでもマーサと二人で出直そうと決めるから、泣けてくる。恋に恋で応えられなくても、人としての親愛が、何にも負けることなく、嵐の以前も以後も変わらずにあり続けるという奇跡。なんでマーサはそこに打たれてくれないのかと思ってやるせないけど。ラストシーンも凛として本当に綺麗だった。忘れられないヒロイン、忘れられない映画。
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