にくそん

彼女のにくそんのレビュー・感想・評価

彼女(2021年製作の映画)
4.3
まさしく無我夢中。自分が新宿ピカデリーのイスに座って呼吸しているっていうことを忘れて、ただ二人のことを目で追いかけてた。まばたきさえしたくなかった。今日ちょっと寒いんで買ったホットココアを、上映が始まる前に半分飲んで、あとは全部そのまま冷えたから、帰りに静かめにカートに置いてきた。

水原希子さんを尊敬する。映画のなかで、本当にレイという人が生きていた。泣くのも笑うのも歌うのも怒るのも愛するのも力いっぱい。なんといっても、好きな人を見る目が本当らしくってきゅんとする。優しくて、心から愛しそうで。誰かにそんなまなざしを向けることができるレイを好きになる。

水原さんが奇跡みたいに「羣青」のレズさんだった分、さとうほなみさんはこの映画は本当に、いろんな意味で勇気が必要だったんじゃないだろうか。途中まで正直、違和感をおぼえないではなかった。でも、それは確実にいつかまでのことで、観終えた今はやってくれてありがとうという気持ちになっている。どこで切り替わったかは自分でも不明。

ここ最近、映画のラブシーンをあまりいいと思わなくて、ラブシーンなんかもう全部紙芝居でいいよと思っていたけど、この映画のは感動的だった。長いし生々しいので、苦手な人もいるだろうけど、私はいいと思った。私だって苦手なんだけど、長いの生々しいの。考えてみれば、いまどき最後の最後にセックスに到達する二人なんて、映画にも現実にもそうそういない。バカみたいで泣ける。

レイの高校時代を演じた南沙良さん、あの透明感は特筆に値する。それでいて堂々と中村珍先生のセリフ言うの、あの声で蜥蜴食らうか時鳥感が。原作ではキモさが異次元だったタクシー運転手を、映画ではそれだけじゃない男にしてみせた田中哲司さんのくたびれ哀愁ムードもよきかな。レイの元カノが真木よう子さんなのもゴージャス。百合好きの人は、真木×水原のキスシーンだけでもどうか目撃していただいて。それでまんまと息もつけずに最後まで観てしまうがいい。呪い。

音楽も、詞のある既存曲は正直あんまり入れないで欲しかったんだけど(ノラ・ジョーンズっぽいやつとか、いやいやいやいや!ってなったわ)、劇伴として作られたっぽい曲たちはどれもよかった。上映前に会場でかかっていた曲、また聴きたいけど、どうしたら。

手持ちカメラのブレる映像は、私はあんまりいい効果を感じなかった。ドローンやらヘリやら駆使して撮ったという爽快感ある疾走シーンはすてき。ただ、多用はしないでほしかった気がする。疾走、笑いだしてしまう二人、すこーんとロングショット、みたいなのは映画の中で1回だけやってシビれさせてほしいやつ。

まあでも細かいことを言う気は失せる。言ったけど。遅まきながら水原希子さんを「Fan!」した。2021年の主演女優賞を私だったらこの人に贈る。ただ、最優秀とかじゃないんだよな。最優秀なんて冷めた言葉じゃ半分も称えられないほどの何かだった。
にくそん

にくそん