にくそん

アンモナイトの目覚めのにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

アンモナイトの目覚め(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

これは映像とキャストの芝居がすごく好き。灰色の寒そうな海。メアリーは化石の発掘・採取と研究が仕事なので、大小の石が転がる海辺の地面が映りがち。それが彼女の心のようでもあって、そこにきれいな服を着た若く美しいシャーロットが入ってくるのが(そういうふうに映像が映画に献身している感じが)すごく好きだ。ここぞで使うロングショットも効いていて、メアリーがシャーロットを見送った帰りの路地の後ろ姿とか、湾内を駆けていくシーンとか、いいなあと思う。

二人の女優もすばらしい。ケイト・ウィンスレットはメアリーの狷介な性格や、孤独を見つめる生き方や、愛を知る喜びを豊かに演じていて脱帽。シャーロットに惹かれるにつれて、メアリーがどんどんかわいくなっていった。ケイトは映画の準備のため、現地で化石採集もしたそうだけど、手がいいなあ。大きくごつっとして、ナウシカだったら「働き者のいい手」って言うよ絶対。

シアーシャ・ローナンはもう登場全シーンずっとかわいい。彼女も映画のために裁縫をやってみたそうだけど何かのインタビューで「つまらなかった! でもそのつまらなさを経験することが大事だと思ったわ」と言っていて笑った。全英刺繍協会(あるかどうか知らないけど)に謝って。シャーロットが馬車の中からメアリーに一瞬だけ微笑みかけた、あの表情が印象的。笑おうと意識して笑ったのか、好きな人の顔を見たら笑みがこぼれたのか。

ベッドシーンは思ったよりしっかりめに描かれていて、その必要性も理解はできつつ、私はややネガティブな感想を持った。演じた二人は、異性愛者でありながら同性愛者を演じることのプレッシャーを感じていたはずで(あちらは特にそこ深刻に批判される環境なので)、それがこのシーンに影響しているように私には見えた(整理したいのでふせったーに書くと思う)。

ストーリーや構成にやや物足りないところもある。もう一声!っていう感じ。貧富の差があって育ちの違いがあって、この時代の社会は二人が愛し合って生きていくことを許さない存在として立ちはだかる。それはもう前提だと思うんだけど、映画の終盤で今さらそこをクローズアップして、さあ二人でそれを超えていこうか、それとも超えられないという結末を二人で見届けようか、というところで映画が終わってしまう。

映画を観ながら、遅い、早い、と感じることが多かった。自分の感覚にしっくり来るペースにならなくて、えー二人まだ来ないのと思ったり、いきなりそんな走ってそんなところまで行ったのと思ったり。そして、映画全体でいうと、私には“遅かった”んだと思う。

それでも、大英博物館の展示ケースを挟んで向かい合う二人のラストカットはすてきだった。エンドロールのデザイン(文字色が白とピンクのマーブル)も格調高い。見終わり感は上々で、好きな映画だ。
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