にくそん

あの頃。のにくそんのレビュー・感想・評価

あの頃。(2021年製作の映画)
3.8
非体育会系の青春グラフィティで、主要キャストが何をしているとか何を言ったとか細かいところじゃなくて、映画の醸し出すもの、その空気感が好いたらしい。「あの頃はよかった」というだけではなく、「あの頃すごく楽しかったし、だから今がまた楽しい」と言い切ることにした主人公とこの映画は爽やかだ。

松坂桃李さんの歌い方、上手く歌うつもりがなさそうでいいなあ。仲野太賀さんはご本人が歌もいける人なんだと思うけど、こずみんらしい女子にモテたそうな歌い方をしていてよかった。太賀さんが人品たいそう卑しい人(なのになんだかんだ愛される人)を演じるの久しぶりだと思うけど、面白いなあ、やっぱり。若葉竜也さんの職人芸みたいなお芝居も好きだ。私は後藤ヲタなので、若葉さんの演じる役もそうだったの、ちょっとうれしい。

ふれこみでいうほど、ハロプロの映画でもハロヲタの映画でもなく、男子の友情や青春の映画なので、「ハロプロに不案内だけど楽しめた」という声が多いのはそうだろうなと思う。むしろ、ハロプロを通らなかった人のほうが映画に集中しやすいかも。ヲタだった人はどうしても自分が見たはずのものを画面に探しがちだと思うので。

男ヲタ同士の心の交わし方は、いいなあと思うけど、私は当時も彼らを右か左か前か後ろか、どこかから見ていて、あの中に入っていた感覚はないので、微妙に距離は感じる。ああそうだろうな、彼らこういうふうに互いをウザく思ったり心配したりし合ったんだろうな、かわいいよな、という感じ。“あの頃”、目にしていた彼たちの風景の、その内面を今になって見せてもらったみたいで面白かったけど。

その分というか、私は西田尚美さんが演じた石川梨華ヲタの高校教師が、卒コンで泣いてしまったのをぎこちなく言い訳(?)するシーンがなんか好きだった。ポイント押さえて部分点をしっかり取っていって高得点を狙うような作り方をしない、今泉映画だから存在するシーンかも。ムダが含まれ、分かったような分からないような構成で、テンポが決していいとは言えない今泉監督の映画が好き。
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