にくそん

街の上でのにくそんのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.2
思っていたより若葉竜也さん(の役)がかっこよくなかった! 思っていたよりずっとかわいいヤツだった! 下北沢にある古着屋の店員なのに(なのに?)、めちゃくちゃ素直な人で、私だったらすぐ惚れる、こんな男。文化的なことでイキったりしてる人を見ても彼はまったく冷笑的な態度を取らず、優しくリアクションするので、見心地とてもいい。主人公がコワモテキュートという意味で、私の脳内シェルフでは『バッファロー'66』と同じ段にある映画。

下北沢とか自主映画とか古着とか古書とかバーとか珉亭とかスズナリとか魚喃キリコとかヴィム・ヴェンダースとか、魅力的にスケッチされたカルチャーたちをどこか懐かしいと思ってしまって、そういう自分が寂しいと思って、でもその寂しさすらもキツいものではないからまた寂しくなる、そんな中年の穏やかな悲哀を誘う映画だった。もう面の皮が厚いので、このぐらいの悲哀だったら娯楽なんだよな。

ライブハウスで聴きながらちびちび飲むワンドリンクのカップ、あの白と透明の中間みたいな割れないアレとか、みんなで打ち上げしてるのにケンカ始めるカップルとか、なんかたまらなかった。

後半どんどん笑わせてくるところがすごく好き。コメディ映画と銘打った作品でも最後のほうで急にいい話っぽくまとめてくるパターンがよくあるけど、この映画は逆方向にアクセル踏んでくれて愉快だった。今泉監督が入れてくる、恋愛に関する謎理論(監督自身がじゃなくて、登場人物が信じている理論ね)も「キター、今泉監督のこういうやつー」って全私が沸く。

キャストも全員MVP。若葉竜也さんは表情の種類が豊富で、ずっと見飽きない、いくらでも見ていられる主人公だったし、成田凌さんが役に合わせて気張ってかっこいい顔をしているのが面白かった。

舞台挨拶で穂志もえかさんが、「『4人のヒロイン!』って写真を並べられると、そういうゲーム(ギャルゲー的な)っぽいけど、(自分以外の)3人がそれぞれ魅力的でどうしよう選べない!ってなっちゃった」みたいに言っていた(なんで穂志さんが張り切って選ぼうとしているのか分からない。面白い人だと思う)。本当に4者4様のヒロインだったし、舞台挨拶でもやっぱり4人それぞれ色が違っていて面白かった。

『君が世界のはじまり』で琴子をやった中田青渚さんがまた関西弁で面白い役をやっていたけど、舞台挨拶ではきれいに標準語ですごいと思った。萩原みのりさんは、気に入らねえやつは全員ぶっ飛ばしてきましたみたいな目をしているのがよかった。お気に入りのシーンを挙げるくだりでも「『負けた!』と思って、悔しかったです」とか言っていて、こういう人、私は好きだ。古川琴音さんは、引力強めのオコジョ顔と地面から数センチ浮いて暮らしている風のしゃべり方がただただ好き。

は、結局、映画そっちのけで女優語りになってる……。映画が本当に好きだったので、舞台挨拶も楽しく見られました、ということでひとつ。
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