あなぐらむ

明日は月給日のあなぐらむのレビュー・感想・評価

明日は月給日(1952年製作の映画)
4.0
公開年としては「とんかつ大将」と同じ年、松竹での川島雄三作品。
ここにはスーパーマンは出て来ず、戦後から急成長して「欧米化」する東京で暮らす大家族の「月給」を巡る悲喜こもごもを描くホームコメディとなっている。お金にまつわる問題、恋愛・結婚(生活)についての問題、陰を落とす戦争未亡人という問題。そこにインチキ外資系企業による詐欺問題まで絡まっていく訳だが、川島一流の早口でまくしたてるスラップスティック作劇でついつい先を見たくなってしまう。果たして月給の遅配は防げるのか? お父さんは辞職せずに済むのか?
「愛のお荷物」の妊娠が問題が、ここではお金になっていると考えれば分かりやすい。脚本も同じく柳沢類寿。
1952年でも山の手ではこれだけおしゃれな生活が出来たのだなと思う反面、これ企業人として富裕層の家庭であり、多くの観客はこれに憧れ・夢を抱いたのだろうと思う。
銀座通り、日本橋高島屋付近とその屋上遊園地、新橋烏森の飲み屋街の景色と、モダンな男女のファッション(特に女性のワンピースなどは非常に鋭角なラインなハリウッド映画風で印象に残る)、人々の暮らしぶりは、小津映画のように異次元のテンポではないので非常に見ていて楽しいものがある。

高橋貞二がイケメンだがうっかり者の二男を演じ楽しませてくれるほか、その婚約者で落語家の娘・晴子を演じる紙京子はちょっと小暮美千代風の可愛い女性。三男の鶴田六郎はテーマ曲を久保幸江とデュエットするが、少し三橋達也っぽい調子のよい感じでちゃっかりな下の子という感じが面白い。

小津映画なら原節子ポジションの戦争寡婦の幾野道子も上品な色気があり、こんな女将のいる飲み屋なら常連になりたい。
また、川島が誘ったという桂小金治がペーペーの落語家・今昔帝とん馬を演じ、彼の登場から映画にも勢いがついて俄然楽しくなる。電話の混線のエピソード、発売されたばかりのテープレコーダーなど、小技も効いて飽きさせない。
劇中何度か、ミュージカル風に歌い踊るシーンがあるのもとても良く、川島作品を観る愉しみに浸れる。

松竹映画には詳しくないのでキャスト陣はそんなに分からないのだが、大坂志郎が日活作品そのまんまだったり、須賀不二男が仕事が出来るイケメン役だったりと、そういう所も面白みがあった。

全部一件落着して大家族みんなが記念撮影を撮って、戦後を生きていく子供たちの両親である戦前・船中世代の夫婦だけの時間が訪れる。この「面白うてやがて淋しき」という雰囲気、狂騒の果ての静寂みたいなものこそが川島の真骨頂であり、松竹大船家族映画のエンディングとはまた違う無常観のようなものが漂う。そこに落としていく為の映画である。
これだけの人物が入り乱れて90分。映画はこうでなくてはいけない。
お正月に家族で見てみるのも一興である。