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水の中で息をする ―彼女でも彼でもなく―

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『水の中で息をする ―彼女でも彼でもなく―』に投稿された感想・評価

良かった……
一言で言えば牡蠣のドキュメンタリー。水の中でオスとメスの数が同数になるよう性別を転換する牡蠣の生態を、人間のクィア性と重ね合わせるという非常に面白い試み。

これまで見てきたようなドキュメンタリーとは違って、ドキュメンタリーパート以外に詩的映像パートみたいなものがあり、説明的というよりも映像的であった。また、水中のボコボコした音とヒーリングミュージック的な安らぎの音楽が相まって、異常に眠気を催す。やはり水の音というのは、母親の胎内で羊水に浸かっていた記憶を呼び起こすのだろうか。

説明によって閉じた解釈に留めないという語り口や、当然に頻出する水というモチーフの、一所にとどまらず流動する性質などについても、クィア性というものを感じられた。また、ニューヨークという都市の現在地を示している点や、牡蠣漁、牡蠣食の文化が形成される上で重要な役割を担った有色人種の存在について触れている点においても興味深かった。射程が広く、重層的な作品だと思った。

上映後、エミリー・パッカー監督と同志社大学の菅野優香教授によるアフタートーク&質問会があって(実は僕はこれが目当てでした、菅野優香教授の著作を卒論を書いた時に読んでいたので端的に言って菅野教授のファンとして行きました)、それがまた映画同等、下手すれば映画以上に濃密な時間だった。オイスターバーという空間で、ゲイコミュニティが形成されていたという話や、真珠の象徴性や"アンダーグラウンド"という概念の持ちうるニュアンスについての質問が参加者から出たのも面白かった。Black queer ecology というのかな、脱人間中心主義という観点で、環境学と非白人、非異性愛を結び付けて考えるのも一つの視点として面白そうだと思った。
Stando
3.3
牡蠣は海水環境によってメスからオスへ、またはオスからメスへ変化する雌雄同体の生物。その存在自体が境界を揺らすようで、このドキュメンタリーのテーマとも重なっているように感じた。

本作は純粋な観察記録ではなく、実際に撮影された現実のシーンと、監督によって構成、撮影された場面が入り混じっている。その曖昧さが、何が現実で何が演出なのかという境界を溶かしていく。ジェンダーやアイデンティティだけでなく、映画そのものの視点を揺さぶるような構成だった。

性的な映像も含まれており、決して軽い内容ではないが、生殖や欲望、身体と環境の関係を考えると、牡蠣を食べると性欲が湧くというイメージともどこか重なって見えてくるのが興味深い。

そしてラストには、この映画がクィアに捧げられているという献辞が表示される。その一行によって、それまでの映像や視点が別の意味を帯び始めるように感じた。

上映後には社会学者の森山至貴さんとライターの若木康輔さんによるトークイベントも開催されたが、観客はわずか5人。こうした作品こそ、もっと多くの人に届いてほしいと思ってしまった。

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