B5版

明日、君がいないのB5版のレビュー・感想・評価

明日、君がいない(2006年製作の映画)
3.8
原題「2:37」。
柔らかな風が囁くように吹く、穏やかな午後の校舎の中で一つの命が果てた。
自らの手によって。
果たして誰が、なんのために?

ムラーリ監督が友人の自殺、そして自身の自殺未遂ののちに19歳で完成させた本作。
初鑑賞が10代の時だったのは今思えば幸運だった。
久々に見た今は、当時と感想の質も熱も異なることにティーンは遠くなったことを実感する…

誰かの自殺から始まるこの物語は、種明かしを行う過程でジェンダー、恋愛、あらゆる鬱屈を抱えて閉じたコミュニティで静かに追い詰められる若者を映し出す。
不安や怒りが絶望に染まり触れなば落ちんとする少年少女の繊細さの描写にぐっと息が詰まる。

作品の時間軸に割と致命的なミスがあり、撮り方がまんま「エレファント」じゃんという指摘もみたが、この映画の重要な点は
人一人が命を捨てるほどの感傷を誰も測れないし否定しても意味ないというメッセージ性の強さだ。
順繰りに彼らの身に起こる不幸に各々感情移入した後で、全て明らかになった後、おそらく一定数には理解されないであろう潔癖で脆弱な感情。
生存本能からくる感情とは異なる、図太い大人になった今では肯定できない自壊衝動にたいして昔芽生えた確かな共感を、これからいくつ歳をとっても忘れない様にしたいと思う。


ムラーリ監督のこの初監督作は当時おおいにカンヌで話題を攫ったそうだが、その後の作品の知らせは私の知る限り入ってきていない。
なぜあなたはこの世から消えたのか?

幾度も心に問い直す作業がこの作品を以って何かに昇華できたことを、だからもう撮る必要は無くなったのだということを、一鑑賞者として密かに祈っています。
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