B5版

PLAN 75のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

選択肢とは本来豊かさの象徴である。
並列するトピックから自分の意思で選びたる行為こそがその言葉に値するはずであり、
袋小路に追い詰めた先に用意された毒餌をあたかも権利のように論うこと、
それは豊かさとはかけ離れてた別物である。

邦画にこういう作品ずっと欲しかった。
老人ホームを襲撃した若者はナチス的優生思想の自論を展開し命を断つ。
現代日本の空気と当時のドイツの親和性が高いことが、この冒頭シーンが実際起きた相模原連続殺傷事件を強く喚起させる描き方からわかる。
持たざる者から持たざる者へ、若者から高齢者への無差別攻撃を止める為にうまれたPLAN75という「支援」制度。
それは、富裕層には決して牙を剥くことはない制度。
たった10万ぽっちを支援と謳う小賢しい有様、横文字のしゃらくさい通称や中抜きの匂いが漂うこの感じ、現政府がいかにもやりそう手口で解像度の高さに舌を巻くとともに、荒唐無稽と笑えないほどに現実への脅威を肌に感じた。
現代の勝ち組負け犬の思想から繰り出されるスケープゴート論がPLAN75の世界線に行きつかない、とはとても言えない。

人が作った制度を、まるで不変であるかのように、天から降ってきたお触れように受け止める老人達。
制度に翻弄されながら不条理に心を痛めながら口をつぐみ耳を閉す若者。
あらゆる諦念が生まれては消え、ゆるやかな絶望に下っていく中盤は本当に痛々しい。
ラストまで立ち向かおうぜ!団結しよう!とはならず、(今の日本にとってはそれはファンタジー同然である)あくまで個々がその先を決めていく。
手遅れを嘆いたり、逃れても尚行先知らずに、一歩先は暗闇のままで、観客達は無力感を覚えたままエンドロールが眺める。
この「日本」は生きてるだけで人としての力を奪われているみたいだ。
限りなく現実を描いた作品だと思った。
B5版

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