B5版

ベネデッタのB5版のネタバレレビュー・内容・結末

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

『ELLE』以来のヴァーホーヴェン監督。
この作品で本格的に監督のファンになった!この人すごい!

これは見る者によって解釈が変わる映画である。
ある時は男の権力闘争劇に乱入した女傑の英雄譚、ある時は女たちのラブストーリー、ある時は聖者を騙る狂人の没落物語として語られる。しかしどれも真に迫るようで手をすり抜けていくよう。
幾多のまやかしで満たされた器は聖なる真実も確かに宿していたかに思えてならない。

神を信じる幼い少女ベネデッタはやがて聖痕が現れ、現にキリストと出会うなどの「奇跡」を通じてイエスに選ばれた女となる。
奇跡の瞬間は誰も目にしていないに関わらず、聖なる修道女がいると噂になることで彼女はまんまと修道院長へと昇進。
勝手を知ってから知らずか、惚れ惚れする手腕である。
そんなベネデッタを取り巻く人間模様。
元修道院長のように危険視するもの、教皇や司祭のように自らの権力のため彼女を利用しようと企むもの、周りは常に彼女の周りを右往左往する。
しかし彼女本人は主の御心のままに、と言うだけである。

序盤、バルトロメアを自ら罰した後は、彼女は最早自身の感情から手を離しているように見える。
常人には見えない道をつき進む彼女の目に宿るものは何か?
征服欲か承認欲求かそれとも神への愛なのか…
果たして誰にもわからない。最後まで。
周囲を欺き操る稀代のサイコパスか?
神に選ばれたという聖人か?
偶然か必然か巡り巡る奇跡の出来事に翻弄されながら観客は来たる審判の日を脇役たちと共に固唾を飲んで見守るのである。
いや、本当、
ヴァーホーヴァン監督の描く女は本当に逞しくで良いです。憧れです。
我の儘に振る舞う生き様が最高なのだ。

自身の行手に巨大権力の暗雲が立ち込めようとも、一度手にしたものが手から零れ落ちそうとも、けして過去を嘆かない。
猜疑の渦中にありながら一切の澱みなく舞台の真ん中で堂々たる風格で舞い踊り次の一手まで邁進するベネデッタ。
彼女はキリストを信じているが、自身はどちらかというと旧約聖書の中で語られる、人間味あふれる信心と欲でミックスされた聖人の姿と似通っているよね。
あっけらかんと性的なことも許容するが、そもそも宗教的体験と悦楽が結びつくことは有名な聖テレジアの法悦が表す通りだし。

この物語は彼女の真実の気持ちなど描かない。描く必要もない。
権力や快適な生活の全てを失ってなお、愛してくれる恋人に背を向けてなお、己の信じる道をいくベネデッタに思わず膝を折りたくなる、そんなラストだった。
これからも力強い女達を描き続けてください監督!
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