B5版

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのB5版のレビュー・感想・評価

3.5
健康保障サービス会社による一件の通報。
それはちょっとしたミス、誤通報だった。
しかし、かたくなな老人とかけつけた警官達の会話は次第に疑心暗鬼を孕み、
ドア越しにエスカレートしていく。
姪の早急な到着、親身な警官の説得、一見膠着した事態は幾度も好転するかに思われたが…
実話を元にした本作は現実時間を模して、その日起きた出来事をなぞる。

支離滅裂なことを叫び、簡単な指示にも従わない怪しさ満点の老人。
複数人で押し寄せてきて、何かに乗っ取られたような過激さでドアをこじ開ける警官達。
真実はその場にいたいくつもの視点の数だけあるが事実はただ一つ、
罪もなく武器も持たない老人が警官に押し入られ、馬乗りの挙げ句に銃殺された。

黒人差別と銃社会というアメリカの負の側面がいかに根深いものか、
日本人の私はいまだに未だ半分すら理解できていないのだと打ちのめされる作品だった。
チェンバレン氏はうんざりするような偏屈な男だが、彼がもしも白人であればこの1日の結末は全く違っていただろうことは、ジョージフロイドの事件から、いや事件前から私たちには自明である。
警察の銃発砲事件にはおおいに被害者の人種が関係している。
この黒人は銃を持ってるかも、という妄想が頭の片隅に一片でも過れば人は、白人達は正常な判断ができないようだ。
そうなれば恐怖に思考が侵されたも同然、互いが激昂した先には、数々のニュースと同じ結末が残った。

この事件はアメリカ社会特有の論理の話だと一見おもうが、問題の根幹部分の行き違いは世界の何処だろうが発生する問題なのが恐ろしい。

恐怖に支配された人間は脆く弱くなることを、
苛立ちは普段の思想を増幅することを、
その攻撃性を罪もない人に向けることが許されないことを、この映画から学びとらなければいけない。
B5版

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