B5版

逆転のトライアングルのB5版のレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
3.3
オストルンドワールド全開ですやんねぇ。
この悪人ではないがしょうもない人間達が織りなす衝突が小出し連発される感じ。嫌さのオンパレード。

描かれるのは荒唐無稽な喜劇のようだが、
イーロン・マスクがTwitterをあのように変貌させると、富裕層が集まる潜水艇での悲劇を、あの頃一体誰が予想していたかと問われると、信じがたいが現実もまたこの映画のように無茶苦茶なのである。
奇抜なトップが世界の舵を取り、それは軌道なく進むのだ。
そんなこの世界の縮図は一つ船でどんどんシェイクされ、ピラミッドが次々に入れ替わる様子を描く。ドタバタ劇であるが序盤から鋭い現実の風刺劇なのである。

この映画はしょっぱなの環境音から不快指数を高めて、豪華客船に赴いた客の質、胸糞悪い人物紹介を経て、舌打ちしたくなる不愉快が重なっていく。そのフラストレーションはついに中盤のキャプテンディナーで最高潮に到達する。
地獄絵図のシーンはこれ楽しんで撮ってたんだろうな、と言う感想。
あと、嫌な奴が酷い目に遭うことで溜飲が下がる観客を見透かして入れてるシーンなんだろうなといつものオストルンド節を感じて複雑な気分になったよね。
優雅にスタッフを海に落として遊ぶ女と
イカれた船長により達成される船での逆転劇を嬉々として見る観客の構図は同じなのである。
人を人としてみておらずコンテンツとして楽しむ、そんな辟易する感覚が我らが21世紀のスタンダード。

終盤、主従がさらに入れ替わったと思ったらまたそこからまたオチがね、結局は私達は資本主義の世界で振り回される存在でぇす、と予想はしてたが力の抜けるラストだった。

あと主人公はハイソな社会に身を置くが、世間体を内心気にする人間としての度量があまりない小心者のハンサムで前2作と同じような人物設定だなと思った。
監督はこういう人物像を主人公に据えるのがお好みなんだろうな。
肩書は立派だが、主義の無い人間というものをあらゆるシミュレーションボックスに入れて人間の理性と本能の境界に慌てふためく嘆くのを眺めるのが趣味の神様みたい。

面白かったけど実際は前2作の方が完成度が高いし好みだ。
というか今作では主人公が自分の醜さと向き合う自省パートがないため、監督の人間のしょうもなさへの慈愛(諸説あり)が足りず、悪趣味の天秤に完璧に傾いてみえる。
こっちがパルムドールとはね、なかなか審査員も趣味がよろしいね。
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